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「君も知っている通り、今、俺には、婚約者がいる」
――課長の婚約者。
以前、飯島さんと、なし崩し遊園地デートで鉢合せした、
一目で、その立ち居振る舞いから、格式の高い家の、いわゆる『良家のご令嬢』だと分かる、
大輪の薔薇のような、あの美しい人。
課長には、あの人がいる。
課長の娘さん、真理ちゃんが言うところの、『おじぃちゃまが決めた婚約者』が。
どんなに私が課長を好きでも、
課長が、私を好きだと言ってくれても、
それは、変えられない事実で、避けては通れない現実。
私は、背筋を伸ばし、向けられる真摯な視線をまっすぐに受け止めて、
静かに語る、課長の言葉の一つ一つをかみしめながら、次の言葉を待った。
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