26恋慕-3

2/35
前へ
/35ページ
次へ
「君も知っている通り、今、俺には、婚約者がいる」 ――課長の婚約者。 以前、飯島さんと、なし崩し遊園地デートで鉢合せした、 一目で、その立ち居振る舞いから、格式の高い家の、いわゆる『良家のご令嬢』だと分かる、 大輪の薔薇のような、あの美しい人。 課長には、あの人がいる。 課長の娘さん、真理ちゃんが言うところの、『おじぃちゃまが決めた婚約者』が。 どんなに私が課長を好きでも、 課長が、私を好きだと言ってくれても、 それは、変えられない事実で、避けては通れない現実。 私は、背筋を伸ばし、向けられる真摯な視線をまっすぐに受け止めて、 静かに語る、課長の言葉の一つ一つをかみしめながら、次の言葉を待った。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

832人が本棚に入れています
本棚に追加