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「――と、言っても、対外的には未発表の、両家間だけの内々の決め事で、今は双方、お互いの身上調査をしている、つまり、腹の探り合いをしている段階だ」
課長の口元が、わずかに苦笑を帯びる。
「腹の、探り合い、ですか?」
「そう。腹の探り合い」
課長は、苦笑したまま、うなづいた。
「この結婚が、総合的に見て利益か不利益か。家を上げての調査計算の真っ最中、って所だな」
――なんだ、それは。
政略結婚って、そんな、殺伐とした前準備が必要なものなの?
「で、この話を相手方に持ち掛けたのは、谷田部の社長、つまりは、俺の義父の方だ」
課長の実の伯父であり、現在義理の父親でもある、ヤタベグループのトップ、谷田部総次郎氏。
課長にとっては、9年前に窮地を救ってくれた、恩人。
その人が推し進める婚約。
それが、課長にとってどんな意味を持つのか、考えなくても分かる。
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