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また、いつもの『からかいモードスイッチ』が入ってしまったらしい課長の、水を得た魚のような楽しげな表情が、少しばかり面白くない。
「……嫌です」
ボソリと、低い呟きで答えれば、
「なんで?」
と、悪戯小僧のような瞳が向けられる。
実のところ、単に『課長』と、呼び慣れてしまったのと、今更名前で呼ぶのが照れくさいだけ、
なんて、暴露するのは、更に、からかいモードのスイッチをハイパワーに入れてしまいそうだから、言いたくない。
「なんでもいいじゃないですか。『課長』って呼ばれるのが嫌なら『谷田部さん』って呼びますよ、年上なんだから」
「君も、強情な人だな」
「そんなこと、課長が一番、よく知ってるじゃないですか」
「それもそうだ」
「それよりも、大事な話しの続きを聞かせてください。足がしびれちゃいますから」
「ああ、もう、可愛くないことを言うのは、この口か」
「……!?」
不意に、唇を課長のそれで塞がれて、ぎょっと身を引く。
でも、引ききらないうちに、すかさず、すっぽりと抱き込まれてしまった。
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