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付けられていた額が離れて、課長の瞳が視界に入る。
熱を孕んだ、少し鋭さを感じさせるその瞳が、優しげに細められ、
「こら、また、そんな顔をする」
耳朶を叩いたのは、言葉とは裏腹な、この上もなく、甘やかな声。
長くて繊細な指先が、私の両頬に伸びて来る。
そして、その指先は、私の頬の稜線を優しくなぞる――ことなく、ギュッと左右に引き伸ばした。
頬をぷにっと引き伸ばされた痛みに、半分夢の世界をたゆたっていた、ぽーっとした頭が、強引に現実へと引き戻される。
「……はちょう~~」
また、この人は、こういうガキ大将みたいな真似を。
「そんなって、どんな顔ですか?」
解放された両頬を、わざとナデナデしつつ尋ねれば、
「もっと、キスして欲しそうな顔」
と、ニッコリ、満面の笑顔を浮かべる。
「っ……」
そんなこと、ぜんぜん、考えていません!
とは、言いきれないところが、けっこう恥ずかしい。
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