26恋慕-3

7/35
前へ
/35ページ
次へ
付けられていた額が離れて、課長の瞳が視界に入る。 熱を孕んだ、少し鋭さを感じさせるその瞳が、優しげに細められ、 「こら、また、そんな顔をする」 耳朶を叩いたのは、言葉とは裏腹な、この上もなく、甘やかな声。 長くて繊細な指先が、私の両頬に伸びて来る。 そして、その指先は、私の頬の稜線を優しくなぞる――ことなく、ギュッと左右に引き伸ばした。 頬をぷにっと引き伸ばされた痛みに、半分夢の世界をたゆたっていた、ぽーっとした頭が、強引に現実へと引き戻される。 「……はちょう~~」 また、この人は、こういうガキ大将みたいな真似を。 「そんなって、どんな顔ですか?」 解放された両頬を、わざとナデナデしつつ尋ねれば、 「もっと、キスして欲しそうな顔」 と、ニッコリ、満面の笑顔を浮かべる。 「っ……」 そんなこと、ぜんぜん、考えていません! とは、言いきれないところが、けっこう恥ずかしい。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

832人が本棚に入れています
本棚に追加