第1章

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日本の豪華客船「飛鳥」が停泊したときは閲覧式に参加して内部を見せてもらったが、 印象としては船というよりは娯楽施設の完備したリゾート・マンションといった感じであった。 サーキュラー・キーはオペラハウスやロックスといった国際的な観光名所にも近いため、 週末は地元の人のみならず世界中から集まる観光客で大変混雑する。 埠頭の至る所で大道芸人や音楽家の卵たちが芸を演じたり、 音楽を奏でている。 アジア系の貧乏音楽家風情が多く、 大抵は眉唾ものと思われたが、 時々思わず聞き惚れてしまうような弦の名手も混じっていた。 そのような名手には必ず大勢の人だかりが出来て、 皆黙って曲を聴いているのだった。 そして曲が弾き終わると、 音楽家の前に置いてある空の楽器入れに小銭を投げ入れて散っていくのであった。
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