3月31日・年度末

10/10
前へ
/13ページ
次へ
店頭で、オールドローズはクラシカルな容姿は美しくても、刺身なみに花保ちしないからプレゼントには向かない、と強くアドバイスされたけれど気にしなかったのだと。広く人の目に触れにくい理由がとってもよくわかった。流通に適さないのだ…… 以来、彼は行きつけの花屋のアドバイスを尊重し、一番美しい盛りの花を見繕ってもらうようになった。自分では選ばず、色もアレンジも花屋のセレクトに任せているが、本数だけは別。 別の日にひとりで買い物に立ち寄った花屋からこっそり教わった、先生は本数だけは必ず指定するんですよ、と。 以来、気にして数えてみた。 夫から贈られるバラの本数はきっかり11本。必ず11本。 彼がどこで聞きかじったのかはわからない、けれどちゃんと意味がある。 11本のバラの花言葉は、『最愛』。 秋良は顔を近づけて香りに浸りながら心からの笑みを浮かべた。嬉しかった。 今日、その花びらを1枚、胸元に忍ばせている。 新たな門出を祝う花だから。 入社式は滞りなく進み、最後に、新人も社員も役員も、集うすべての人が、手に持つ紙飛行機を飛ばした。 皆にとって、明るい未来が届くようにと、紙飛行機の翼に願いをかける。 見上げながら、秋良は思う。 大丈夫、私なら大丈夫。ひとりじゃないもの。支えてくれる人たちがいる。だから、楽しいことも辛いことも乗り越えていける。 ここに集うあなたたちも、様々な山や谷が待ち構えているかもしれない、でも、今日の日を思い出して。 望んで、望まれて、この場に立てた誇りを忘れないで。 格納庫に、数多の紙飛行機が舞う。 その白い姿を眺める彼女の顔には、齢を隠せない笑い皺が浮かび、輝いていた。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加