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店頭で、オールドローズはクラシカルな容姿は美しくても、刺身なみに花保ちしないからプレゼントには向かない、と強くアドバイスされたけれど気にしなかったのだと。広く人の目に触れにくい理由がとってもよくわかった。流通に適さないのだ……
以来、彼は行きつけの花屋のアドバイスを尊重し、一番美しい盛りの花を見繕ってもらうようになった。自分では選ばず、色もアレンジも花屋のセレクトに任せているが、本数だけは別。
別の日にひとりで買い物に立ち寄った花屋からこっそり教わった、先生は本数だけは必ず指定するんですよ、と。
以来、気にして数えてみた。
夫から贈られるバラの本数はきっかり11本。必ず11本。
彼がどこで聞きかじったのかはわからない、けれどちゃんと意味がある。
11本のバラの花言葉は、『最愛』。
秋良は顔を近づけて香りに浸りながら心からの笑みを浮かべた。嬉しかった。
今日、その花びらを1枚、胸元に忍ばせている。
新たな門出を祝う花だから。
入社式は滞りなく進み、最後に、新人も社員も役員も、集うすべての人が、手に持つ紙飛行機を飛ばした。
皆にとって、明るい未来が届くようにと、紙飛行機の翼に願いをかける。
見上げながら、秋良は思う。
大丈夫、私なら大丈夫。ひとりじゃないもの。支えてくれる人たちがいる。だから、楽しいことも辛いことも乗り越えていける。
ここに集うあなたたちも、様々な山や谷が待ち構えているかもしれない、でも、今日の日を思い出して。
望んで、望まれて、この場に立てた誇りを忘れないで。
格納庫に、数多の紙飛行機が舞う。
その白い姿を眺める彼女の顔には、齢を隠せない笑い皺が浮かび、輝いていた。
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