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◇ ◇ ◇
明けて翌日、空は冴え冴えと澄み渡っていた。
格納庫には、関連企業も含めた数百人にのぼる新入社員達が並んでいる。
秋良は新人達の顔を見ながら思った。
彼女の同級生たちの子息も、今年採用されたと聞いている。世代交代だ、と感じ入らないわけにはいかない。
スーツの胸ポケットに手をやる。
入っているのは、桜色の花びら。
昨日、いつもより早めに退けた道すがら、自宅近くの最寄り駅に降り立ったら、自動改札機のほぼ真向かいにいる夫の姿を認めた。
ガードレールに腰掛けて、本を無心に読んでいる。脇にはバラの花束を携えている。
ごろごろと引くキャリーバッグの音に目を上げた慎一郎は、ぱたんと本を閉じる。
「お帰り」
「ただいま戻りました。あなた、学校の方は?」
「ああ、滞りなく無事何事もなし、だ」
「明日は入学式なのですよね」
「皆にとって、新たな門出を祝う日だ」と言って、慎一郎は花束を差し出す。
桜色を纏った大輪の花は華やかに薫った。
11本のバラ。
夫は節目に決まってバラの花束をくれた。
彼が贈るバラの色は毎回違う。種類も違う。大輪だったり、一重だったりする。ほとんどがモダンローズだが、ある日、珍しいオールドロースを花束にした。結婚して日が浅かった頃だ、ポタニカルアートにこぞって描かれるボタンの花のような姿は可憐で思わず息を飲んだ。が、翌日あっさりすべての花が萎れ、花びらがばたばたとリビングのテーブルや床の上に散っていた。
もらった方も贈った方も唖然とした。
「花屋の言う通りだったな」と慎一郎はぽつりとこぼした。
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