第一話 ペンは剣よりも強し、 されど銃口の切先には能わず

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信頼や実績、はたまた買収か。その名家の名の下に、税関の検査は自然と甘くなっていたのかもしれない。 それは大陸の七分の一を占める中華大国の茶葉に紛れて運ばれていた。イリアの把握しているだけでも五十を超える原産地や品種。一目見ただけでは分類不可能な品数の類似品。 薬物はゾッとするほど静かに忍び寄って、気づけば自らの首筋に切っ先を突きつけた。 知らなかったでは済まされない重大な過失。 イリヤは運び屋としてまんまと操られていることに、ようやく察したのだ。純粋だったが故、いや、普段の冷静な彼女ならばおそらく騙されなかったであろう。それくらい明らかに怪しい契約だ。 というか明らかな向こう側の契約違反だった。ペーパーカンパニーの常套の手口。不履行の条件にあてはまって、本来であればフォートレイン側が訴えを起こすことだってできる。 しかし、イリアはやはりそれを選ばなかった。ことを大袈裟にするわけにはいかない。それは父親に説明するのが怖いとか、それでもフォートレインの名に傷がつくとか、そういう理由も多少はあったのかもしれない。 でもそれらは彼女の頭を悩ませるほんの一因でしかなかった。 なぜなら、自分の運んでしまったクスリが人を殺めてしまっている事実が、単純に彼女の正義感を踏み躙るものであったからだ。 この落とし前は自分でつけてやる。自分で蒔いた種は自分で刈り取らねばーーー
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