第一話 ペンは剣よりも強し、 されど銃口の切先には能わず

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要するに俺が何を言いたいかというと、こういうことである。 逆説的に、朝俺が起きられないのは俺のせいじゃない。 ーーーそう、社会が悪いのだ。 「あんたが悪いに決まってるでしょうがっ!!」 気づけば俺の枕に、アリスの全身の体重ののった肘打ちが突き刺さっていた。 「あぶねぇっ!」 冷や汗。 もはや躱すのがやっとで、俺は頭を下にしてベッドの上でひっくり返っていた。 アリスは機嫌の悪そうな顔とともに体を起こすと、何事もなかったかのように手櫛で髪を整える。 「............」 なんだろう。日に日に起こし方に思慮と遠慮が欠落している気がする。 「下手したら死んでるんですが」 「社会にとっては良いことね」 あながち間違ってないのが悲しい。 「さっさと支度しなさい」 「朝メシは?」 「もちろん、もう無いわ」 ですよねー。 しかし、アリスの”もう”という副詞的用法に時間的要因以外の含みがあるのを俺は見逃さなかったーーー嫌な予感。 すると答え合わせをするかのようにガチャリと部屋の扉が開いた。 「なっーーー」 現れた人物を見て俺は時が止まるのを感じる。 「ユキ、もう、起きた?」
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