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「誤算じゃなくて考えなしでしょ」
あの時のギムと同じセリフが返ってきた。
やっぱり?
「そのことをあの子は?」
「どうなんだろうな。まぁ知っていても知らなくてもそれこそ俺には関係ない。救いの手を差し伸べた覚えもないし、アイツが報われたかどうかなんて他の誰にもわからないんだから」
アイツの身体を見たお前なら分かるだろう?
俺の言葉の裏も読み取れるはずだ。
「虐待......ね」
傷ーーーミウの身体を覆うおびただしい数の傷。火傷。裂傷。鬱血痕。打撲痕。もちろん外見じゃわからない箇所にーーー
............もし、今でもミウが高等区で暮らしが続いていたら。
「教育の賜物だな」
俺の皮肉に、アリスは珍しく苦い顔をして頷いた。
「.......そうね」
教育とは名ばかりの暴力ーーーとはいえ高等区画のお家柄。表立って気づいたものは皆無だったろう。
一家惨殺、娘は行方不明として事件は幕を閉じた。
「ねぇ、本当に小遣い稼ぎ?」
アリスのジト目に俺は「さあな」と曖昧に返す。
俺は聞こえた。
あの屋敷からミウを連れ出す際、確かに聞こえた。
『ありがとう』
でも今回は次の言葉でお茶を濁すことにしよう。
ーーーそれはまた別のお話............みたいな。
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