第一話 ペンは剣よりも強し、 されど銃口の切先には能わず

137/170
前へ
/306ページ
次へ
校庭の広場から悲鳴が上がったのは、ちょうど俺とアリスが席を立った時だった。 「なんだ?」 複数の女生徒の声。水面を広がる波のように喧騒が伝わってくる。その後に呻くような男子生徒の大声が聞こえてきた。 「ずいぶん騒がしいな」 「ユキッ」 アリスが俺を向いた。なんだ、また俺に行けというのか。 俺の不服そうな顔に、アリスが剣幕をたてる。 「はいはい、行きゃーいいんだろ、行きゃー」 そう言っている間に食堂に数人の生徒が雪崩れ込んできた。 「た、助けてくれぇ!」 「何があった」 俺は転がる男子生徒の一人に近づいて声をかける。 「あれだよ! アイツが暴れてやがるっ!」 男子生徒が指差す先。食堂の扉は大きく開け放たれ、逃げ惑う生徒たちの奥に見えるのは血潮に染まった細い腕。その腕が女生徒の髪の毛を鷲掴みにして、渡り廊下の支柱に何度も何度も叩きつけている。足元に転がっている二人の生徒。 その細い腕の持ち主は、男子制服のワイシャツ姿。ただ目だけは何を見ているか分からないほど錯乱し、時折変な笑みを浮かべているのだ。 クスリか? 中毒症状なのか息が異常に荒い。 俺は仕方なしにそいつの元へ駆けつける手前、振り返って一部始終を傍観しているリオに向かって言う。 「お前は来なくていいのか?」 するとリオは「何のことでしょう?」 と朗らかな笑みを浮かべた。
/306ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加