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どれだけ時間が経っただろうか。僕には永遠の時間に感じられたし、実際は数分だったかもしれない。
僕は全身の力を抜いた。
男は僕が観念したのかと思い醜悪な笑みを浮かべた。男の両手が僕のズボンにかかる。
今だ。
僕はポケットのソレを男の左の眼球に向かって突き刺した。
「あ”あ”ぁ”ーー!!」
男が吠えた。何が起きているのか分からないのか身悶えながら頭を抱えた。
僕はその隙に男をはねのける。
「俺に何をしたーーーっ!」
男の方は状況を読み込めていないようだ。
そこから先は一方的だった。
左目から錆びたナイフの柄を生やしている男の頭を蹴り上げた。不細工に倒れたところに追い討ちをかける。ナイフを無理やり抜き取って、今度はもう片方の眼球へ。
男が再び大声を上げる。唾液が辺りに飛び散った。
僕は理解した。
僕は教わった。強者が正義で弱者が悪なのだと。世界で一番強いと思っていた父がいとも簡単にこの男に殺され、そして僕は今その男を殺そうとしている。
僕が強者で、こいつが弱者。
「うるさい」
僕は流れ出そうになる涙を堪えて、そいつのみぞおちをつま先で蹴りつける。父さんから散々殴られた場所だ。子供の蹴りでも悶絶させることは容易い。
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