俺の内情

2/6
前へ
/6ページ
次へ
時刻は午前3時15分。 この時間に、俺達は生まれた。同じの中から、同じ人間の中身から、同じ遺伝子の源から、俺達は生まれた。 俺達はずっと一緒に過ごして、ずっと一緒に学んで、ずっと一緒にいろんな思い出を作るんだ。 それが当然で、それが必然で、それが普通の事なんだ。 さっきまではそう、それが俺達にとっての日常だった。 これからはもう、それを完全に崩していく。 それを完全に粉々にして、限界レベルまで粉々にして、再生なんてしないレベルまで落として、誰も知らない、誰もわからない、誰の記憶にも残らないように、なかったことにするんだ。 「恭介…」 「恭介、無視すんなよ…」 「恭介、こっち向けよ、何で全然こっち見ないんだよ…」 「恭介、もうほんとに何も話さないつもりなのかよ…」 「恭介、お前の好きなさ、エクレアだっけ?あれ買ってくるから、あと他のやつもやるからさ、シュークリームもケーキも、苺のやつもチョコレートも全部買う、全種類買うから、だからそれ全部食べていいから。だから、まじで許して…」 名前を読んでくれている。前の俺ならきっと、緩む口を押さえられないくらい喜んだであろう、その甘い切ない、涙まみれのその言葉を、俺はもう二度と聴きたくないと思っている。 それに俺は、そこまで甘いものは好きじゃないということを、こいつは知らないわけないのだけれど。 もしや神経…いや、間違いない。きっとさっきの長時間の俺の愛の最後の愛の行為で、一番好きだったこいつの神経を、俺は何処かずたずたに傷つけてしまったのか。 その神経ごと俺は、好きだったはずなのに、俺はもう、こいつの事を名前で呼ぶ気はないのだ。 俺はこいつの話を、息遣いからも、もう感じたくない。 感じたくないではない、もう感じないように、自分の神経を停止させたんだ。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加