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むしろ、見た目はストローそのものである存在に対して、喋ることができるというだけで「マン」まで付けてあげたのだ。感謝こそすれ、叱られる謂れは全然ない。
とまぁ、そんなことを、説教もだいぶ落ち着いてきた頃合いにフレックスへ主張してみた。
「そういうことを言っているのではない。私には『フレックス』という名前がある。もしも仮に君の主張を受け入れろというのなら、同じ理屈を以て私はこれから君を『人類』と呼ぶが、如何」
それは、まぁ、確かにいただけない。そうするとまるで僕が人類代表のように思われるし、ましてストローの声が聞こえるなんていう人間が人類代表でいいはずがない。
「要するに、そういうことだ」
フレックスは満足そうに頷いて、カランとコップの中で揺れた。
◇
フレックスの初登場はなかなかに強烈かもしれなくて、「もう我慢ならない」と言いながら、ある日突然僕のコップに突き刺さってきた。というより、突き刺さっていた。
果たしてどうやってそこまで辿り着いたのか、その謎は特に暴く気も起きない闇に包まれている。
「我々ストローはここに、人類に対して反旗を翻すことを宣言する」
というのが二言目だった。
どうやら我慢ならないのは僕云々というより、ストローに対する人類の態度全般がいけないらしい。
フレックス曰く、彼は対人間用に用意されたストロー軍の尖兵であり、かつ人類に対する宣戦布告の使者でもあるそうで、軍人らしく姿勢をビシッと伸ばしたフレックスは、厳かな口調で僕らが犯してきた重大な過ちとやらを読み上げはじめた。
罪状。一、我々同胞を惨たらしく虐待している。二、我々同胞を軽々しく捨てている。三、時たま面倒くさがって燃えるゴミに捨てている。
「ちょっと待った」
と、話を聞き終えた僕がおもむろに口を開くと、もう役目は終えたとばかりにカルピスのプールでぷかぷか浮いていたフレックスが、瞬間、ギクリと身を固くした。ような気がした。
「なんだね」
「罪状の一って、あれはどういう意味なのさ」
「どう、とは」
問い返すフレックスの額には、当然冷や汗が浮かんでいる。もちろん、それが実は冷や汗なんかじゃなくて、僕が先程口に含んだ時にストローから少し垂れたカルピスだとしても全然驚かない。
「ストローへの虐待ってのが、いまいちピンと来ないんだけど」
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