Straw Man

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 この疑問は、まぁいいだろう。  確かにストローを軽々しく捨てるという行為が酷い虐待だと言われても、それはまだ仕方ないと百歩譲って納得できる。三についても思い当たる節はあり、生憎、僕の部屋には燃えるゴミ用のゴミ箱しかないのだ。一階には燃えないゴミを纏める袋があるのだが、そこまでわざわざ行くのは面倒くさい。  しかし罪状の一とは別に二と三が存在することを鑑みると、どうやら「ストローを捨てる」ということはストローへの虐待に当てはまらなさそうで、そうすると他にストローへの虐待なんていうのはちょっと思い付かない。  要するに、僕──というか人類は、ストローに対して「軽々しく捨てる」以外の虐待をしたと訴えられても、まるで身に覚えがない。と思う。 「それこそが人類の傲慢なのだ」  質問の意図をようやく理解したらしいフレックスは、先程までの緊張した様子とはうってかわって自信と威厳を取り戻したらしく、ピンと胸を張り、僕ら人類がいかに背徳的かを指摘した。  もちろん、ストローなんてものは上から覗けば綺麗な円形をしてるが故に前後左右の判定がなかなかに難しく、どこまでが胸でどこからが背中なのかはご想像にお任せしたい。 「君はストローでドリンクバーの何かしらを飲む際に、一度でもストローを齧って飲んだことはないか?」 「昔はしてたけど、今は」  と、自己弁護をする僕をフレックスは手で制した。本当はフレックスに手なんてないんだけど、そこら辺の空気感に気付けないほど僕も鈍くはない。 「君だけの話ではない。人類は恒常的にストローを齧る生き物なのだ。その数は一定値を下回らず、誰かが齧らなくなれば、また別の誰かが齧るようになる」 「それが虐待ってこと?」  だとすると、正直ストローを同情する気にはなれそうもない。  人類は幼少期に乳首を吸っていた記憶が残滓として残っていて、それがタバコを吸う遠因になっているという話を聞いたことがある。要するに、喫煙は幼児退行現象の一つというわけだ。  そういう意味ではストローを思わず齧ってしまうのも喫煙と同じ幼児退行現象の表れかもしれず、いわば哺乳類に生まれた僕らの性であり、本能なのかもしれない。 「ふむ。それでは訊ねてみよう。もしもティラノサウルスが本能だからといって人類を齧りだしたなら、君はそれを酷い虐待だとは思わないかね」
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