参 ――井戸の底――

12/22
247人が本棚に入れています
本棚に追加
/120ページ
「今、女じゃないとでも?」 「神に仕える貴女に、性はありません。  神に愛されたものは、月のものさえ、止まるとか」  まるで、人としての生殖機能を取り上げられたかのように。 「よくご存知で」 と言いながら、真鍋以外誰も居ない、寝所の向こうに姿を現した。  真鍋が目を細めて成子を見る。 「いいのよ。  私にはそんなものいらない。  だって、斎王はどうせ、人を愛してはならないのよ」 「成子」 と床下から声がした。 「では、お前に神が愛せるか」  わからない、と成子は思う。  御簾の向こうでしか見ない神を愛せるかどうかなんて。
/120ページ

最初のコメントを投稿しよう!