そして…俺は…

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彼女だったあの娘は妊娠していた。 俺は気づいてた。 何度か吐いているのを見ていたし、食の好みが変わってきていた。 普段より怒りっぽくなっていたし、食べる量も減っていた。 気づいた時は嬉しさと困惑の気持ちだった。 心の中では望んでいたしあの娘も欲しがってたから。 だけど不安も確かだった。 それは俺自身の問題であの娘には話せてなかったけれど。 まだ仕事を辞めたばかりで得てなかった。 同棲はしていたが結婚してるわけではないし、まだあの娘は若いのに母親にしていいのか。 何より俺は父親になれるのか? 約束は覚えていたけれど。 その約束に嘘はなくても。 それでも…悩んでいた。 でも答えと覚悟を決めてあの娘の気持ちを確認して、自分の中で納得して後悔しない道を選んだ。 望んでくれたなら、きっと幸せにすると。幸せになると。 だけど違った。違ったんだ。 選ぶとか後悔とか覚悟なんて必要すらなかった。 あの娘は既に俺を見てなくて、あの娘はとっくに俺を愛してなかったから。 お腹の子は俺の子じゃなかった。 あの娘は知っていた。 自分が妊娠してる事を。 半年も前からあの娘は浮気していた。 2年も前からあの娘は俺の彼女じゃなくなっていた。 あの娘は気づいてた。 あの日俺が何を言うのか。 だから選んだ。 俺より若く、俺みたいなフツメン以下じゃなく、俺よりも安定した… 子供の父親を。 それをあの娘の口からでなくあの娘の友人から、聞かされ知った俺はどれだけ惨めで情けなくて辛かったか…わかるか? それも相手がその娘の大切だった人だったと知り、罵られ、謝るしかなく、そんなその娘の…俺の気持ちが…わかるか? それでも嫌いにどうしてもなれない…そんな矛盾を孕んだ気持ちが? 逃げ出したくて、目を背けたくて、現実と受け入れたくなくて、でもできない…考えたか?考えた上でしたのか? せめて…そうだと願いたい。 でなきゃ…愛し、今でも愛した事を忘れられない者は…救いがないじゃないか。 それすら赦されないならーー 「…死にたい」 これまで何度も考えた事はある…けど口に出したのは…生まれて初めてだな。 真実は残酷だった。 俺は未だに願う。 幸せを。 君からは沢山の初めてを貰ったけれど。 “口にできない程の苦しみ” それが君から貰った最後の初めて。 目を瞑り君を思い浮かべ そのまま俺は… 意識を…奪われた。
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