6人が本棚に入れています
本棚に追加
何時までも続いてほしいと願った日々は、ある日唐突に終わりを告げた。
町内会を通じ、ある布告が出された。
各家庭の飼い犬を拠出せよというものだった。
軍用犬として働かされるのではない、毛皮を衣類として利用するためだった。国民として大切な義務を果たせというわけだ。
各家庭から金目のものが集められ、物資の足しにと指定された作物の栽培が奨励された。庭先にたくさん植物を植えた。育てた、刈り取った。
全部守った、けど!
コロを持って行かれるのはイヤ!
「お父さん、お願い、コロと連れて行かさないで!」
少女は必死になって訴えた。
けれど、子供の願いが聞き届けられることはない。
近所の犬と一緒にコロも一所に集められ、野原家から姿を消した。
無駄吠えしないようにいつも言い含められていた、その言いつけを守り、他の犬が怯えて吠える中、一匹だけおとなしく座って尻尾を振っていたと人伝に聞いた。
いつでも話を聞くよ、という目で彼女を見、その日起きたことを聞いてくれたコロはもういない。
空になった木箱を前に、幸子は何時までも号泣した。
最初のコメントを投稿しよう!