第二話 始まりの終わり

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 舞花が目覚めると、そこは見慣れた部屋の風景だった。けれど、自分の部屋ではない。  あぁここか、良かった。と思う反面、あれは夢じゃなかったんだと感じさせられた。 「舞花……、目ぇ覚めたのか」 「兄さん。やっぱりここは兄さんの家か、良かった」  舞花はベッドから起き上がった。 「無理しなくて良い、寝てろ」 「うぅん、大丈夫。気を失っただけだから」 「そうか。……覚えて、いるんだな」  佐々木は静かに問い掛けた。その口調はとても重々しい。 「うん、はっきりと。兄さんいてくれてほんと助かった。私だけじゃ、何も出来なかった。ただ、見殺しにするだけだった」  佐々木は舞花に近付くと、舞花の頭を右腕で包み込んだ。 「バカが、高校生にそんなこと出来てたまるかってんだ。無理、するんじゃねぇ。少なくとも今俺はここにいる」 「うん」  舞花は、しかし声を押し殺して涙を流した。 「ねぇ兄さん」 「なんだ」 「お母さんとお父さんは?」 「……すぐに病院に運ばれ、手術を受けた。幸いまだ時間も経っていなかったからか手術は成功した。だがまだ目は覚ましていない。…安心は出来ない」  舞花はしばらく佐々木の腕の中で泣いていた。下唇を噛み締めて。 「安心しろ、お前にはまだ俺がいる。仲間もいるだろ」  そう言われてコクリと首を縦に振る。そしてゆっくり口を開く。 「兄さん。私兄さんの、そんなとこ好きだ。どんな時でも、決して何の保証もない無責任なことを言わないとこ。だからいつでも兄さんの言うことは、信用出来るんだ」 「あぁ、そうだな。ありがとう」 「私ね……どんな事が起きても、気休めなんて聞きたくない」  とても悲しそうな顔で、佐々木は無理に微笑んだ。 「お前は強いな」  舞花はまた、何も言わずに首を縦に振る。 「もう遅い、明日は休日だけど、もう寝ろ」 「ベッド…兄さんの」 「気にすんな、この家には敷き布団と掛け布団一式あるから、俺はそれで寝る。おやすみ」 「おやすみなさい」  佐々木は舞花が眠るのを待ってから、その部屋を出た。 「あいつは……どれだけ強くなりてぇんだよ。無理すんなって、無理しまくりじゃねぇか。俺じゃそんなに頼りないか?」  その呟きは、余分なものが何もない、その無機質な空間に飲まれていった。  *  昔から舞花は親が仕事で忙しく佐々木家(佐々木の実家)に預けられる事が多かった。
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