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二十分後、勢いよく立ち上がる生徒が一人。舞花だ。
「出来ましたよ、先生。採点お願いします」
そう言って教卓にプリントを叩き付けた。佐々木はというと、少し驚いた顔をしている。
「そんなに意外? 私だって頑張ればこのくらい解けるのよ。早く採点してください」
「分かってるよ」
佐々木は舞花の態度に頬をピクピクさせながら赤ペンを手に、丸をつけ始めた。
しばらくの間、教室には丸をつけるシャッシャッという音だけが響いた。
丸をつける音だけだ。
やがてその音も止まり佐々木が静かにプリントを持ち上げる。
「全問正解だ」
佐々木の表情は苦痛に歪んだ。そんなにも全問正解されたことが悔しいのか、普通は喜ぶべきところなのに。
「当たり前よ」
舞花は口元をニヤリとさせる。
「クソッ。高三の問題も混ぜたのに」
「甘い甘い、高二の問題なんてつまんないもん、高三予習済み」
「お前って奴は昔から……」
佐々木は今にも額に血管が浮いてきそうなくらいイラついている。舞花も負けじと嫌なオーラを出す。
気のせいではないだろう、完全にこの二人は喧嘩モードだ。
「昔から、なに?」
舞花はなおも佐々木を挑発する。佐々木は何も言わない。
「昔から、勉強を私に教えてきたのは紛れもない兄さんよね?小学生に方程式叩き込んだのはどこのどいつだっけ」
………ん? 今場違いな単語が聞こえたような。
「はっ、残念だがそれはお前が俺の解いてた問題を見て面白そうだと言ったから教えたんだ。つまり、舞花! お前が望んだんだよ」
舞花? え、下の名前で先生が?
「なっ……。えっ、本当?」
途端舞花の額には汗が浮かぶ。顔がどんどんマズイという風に変わっていく。
「大体舞花は昔から俺がいないと何も出来なかったくせに大口叩くんじゃねぇ! 小学生低学年の頃はお前は毎日い」
「やーーー! それはダメ、それだけは言っちゃダメ。あれは過去に葬った思い出だから」
舞花は一歩二歩と後退り、ダッシュで一斗の陰に隠れた。
「お願い、兄さん。それだけは言わないで。約束でしょ? 私が悪かったから、ね?」
舞花は完全に弱気になり一斗の背中越しに佐々木を伺っている。
「ふん。まぁ今日は許してやるよ、けど今後は……」
佐々木はそこで言葉を切った。しまった、と頭を押さえている。
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