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「に……さん。とさんとかさん、じゃったよ?」
佐々木にはそれだけで何が言いたいのか分かる。酷く傷ついた顔をしたのは、傷だらけの舞花にすぐ気付いてやれなかった自分を責めたからだ。
舞花は、今度は何もかも否定し肯定するような大声で叫んだ。
「お父さんとお母さん死んじゃったよ! 二人はもう二度と戻ってこないんだ、あああ゛ああぁああ!」
佐々木は喚く舞花をぎゅっと抱き締めた。すると舞花は喚くのを止め、初めて佐々木の前で声を上げて泣いた。それはきっと、今は亡き両親にもみせたことのない舞花の素顔なのだろう。
「うぁあぁぁん、ひっくふぇぇぇ……うっうぅ……えぇ」
「よく頑張った、お前はほんとによく頑張った。悪かったな遅くなって。俺舞花に何もしてやれない」
舞花は泣いていて、言葉もまともにしゃべれないが、佐々木の言ったことを否定するかのように、佐々木の背中に腕を回してきゅっとワイシャツを握り、首を横に振った。必死に何かをこらえているのがその様子からも伝わる。
「もう、我慢すんな。全部俺が受け止めてやる。お前の気持ち全部だ。……頼りないかもしれないけど、ぶつけてみろ」
舞花は佐々木の胸の中で小刻みに震えてその度に涙を流した。
佐々木は舞花が泣き疲れて眠るまで、ずっと抱き締めて舞花の傷ついた心を包み込んでいた。
やがて、舞花の腕はだらりと床に落ち、聞こえるのも泣き声ではなくすーすーと眠る声に変わった。
佐々木は舞花のブレザーとベスト、リボンを脱がせ、涙を拭いた。ブラウスも、苦しくないよう第一ボタンを外し、スカートから出してやる。
軽々と持ち上げてベッドに寝かし布団を掛ける。
「……全く、いつの間にこんな可愛くなっちまったんだろうな、お前は。ちょっと目を離した隙に綺麗になりやがって、俺以外の誰かに好かれやがって。とっくに、ただの従兄弟として見られなくなってんだよ。気付けよな、全く。……多少は俺の気持ちになってみろ、大変なんだぞこっちも。我慢することが多くてな」
佐々木は舞花の黒髪を軽く梳いた。さらさらとして、とても綺麗。これはお母さん似だな、なんて思って苦笑する。自分も顔立ちは母似で、舞花ともそっくりなくせに。
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