第四話 思いは何処へ向かう

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 そして時計を確認する。まだ佐々木が家を出る時間までは余裕があった。 「あいつどんだけ早く出てってるんだ? けどま、高津の家まで行ってんだから時間も掛かるか」  そう呟いてふと思う。いつもと変わらない舞花の姿。昨日泣いていたことを知ってる佐々木ですら今日の様子だけじゃ分からないほどに腫れていない目元。  彼女は本当に、誰にも知られたくはないのだ、泣いたことを。そのために一生懸命腫れも引かせたのだろう。あれだけ泣いて何の手入れもせずに寝て、赤くならない人はいない。そして佐々木の前ですら明るい舞花であろうとする。完璧な舞花であろうとする。 「舞花……どんだけ無理すんだよ。俺でもお前の支えにはなれないのか? 今の舞花を見てると不安になる……」  教師として? 従兄弟として? …………愛す人だから?  佐々木は静かな部屋で一人、頭を悩ませるのだった。  *  その日、舞花達のクラスは一次元目佐々木の授業だった。 「今から抜き打ち小テストする。教科書仕舞って、机の上はシャーペンと消しゴムだけにしろ」  えー、マジかよ、等々教室はブーイングの嵐だ。そんな中でも、舞花と一斗は大人しく指示に従っていた。 「小テストくらいでそんな喚かなくても、ねぇ一斗君?」 「そうだな。先生だって全く分からない問題を出してくるわけじゃない」 「相変わらずお堅いなぁもう」  舞花は苦笑した。わざと君付けで呼んだのにそこをスルーされたのが不満げでもある。 「じゃあ今から十分間。始め!」  あれだけわーわー言っていたのに、いざとなると大人しく問題をとき出す、どこの学校にも良くある光景だ。  そしてあっという間に十分経過。 「止めっ! 今から答え言ってくから隣りと交換して丸付けだ」  舞花は答案用紙を隣りの席の人である一斗に渡した。変わりに一斗のを受け取り解答を見る。ウザいくらいに同じ答え。さすが舞花と学年一、二を争うだけはある。 「机の上、赤ペンと答案だけにしろ」  佐々木の指示に慌てて舞花は赤ペンを探す。 「赤ペン、赤ペン……赤赤…………うっ」  突如舞花は頭を押さえた。頭の中を倒れた両親の姿が巡る。赤い赤い、綺麗な血。赤を意識したせいか、事件発見時のあの風景がフラッシュバックしたのだ。  舞花は強く目を瞑り必死に押さえ込もうとするが考えるほどイメージは強く濃くなる。
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