第四話 思いは何処へ向かう

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 そんな舞花の異変に最も速く気付いたのは、例のごとく佐々木だった。 「伊乃上、どうした。気分が悪そうだな。無理するな、保健室行ってこい」  舞花はふっと顔を上げて笑う。しかしその表情は無理しているようにしか見えない。 「ありがとうございます。そうします」  舞花はゆっくり立ち上がると壁伝いに歩き教室を出ていった。  舞花の立ち去った後の教室は騒然となる。至る所で舞花ちゃん大丈夫かな、凄く辛そうだったよね、心配だな等の声が聞こえる。春樹も珍しく神妙な面持ちだ。 「静かに! 授業続けるぞ」 「えー、先生は舞花ちゃん心配じゃないの」 「クラスの一員だ、心配じゃないわけねぇだろ。けど今俺らがここで騒いで何になる? 自分のせいで授業が進まなかったって知ったら伊乃上はどう思う?」  その言葉に、クラス中がしんとなる。佐々木は言うことが上手い。ただ注意するのではなく、確信を突いてくる。  しかし、ただ一人だけ佐々木の言葉に違和感を感じる者がいた。一斗は密かに、心配するのはクラスの一員だからではなく、愛する人だからだと佐々木の言葉を訂正し、そして歯を噛み締めた。舞花の異変になぜ気付けなかった、俺が一番側にいたのに……それはそんなことを思う顔だった。  *  舞花は二時限目には復活しクラスに戻った。松島はもう少し休んだ方が良いと言ったのが、舞花はそれを無視して勝手に戻ってきたのだ。  その後は何の問題もなく時は進み、今は放課後。舞花や一斗や春樹は早速道着に着替え、素振りをしていた。しかも、ただするだけじゃつまらないということになり、一人が竹刀を横向きにして二本持ち、それを残りの人が打っていくといったものだ。 「んで、何で俺が持つ係りなんだよ」  春樹はごねた。けれど竹刀はしっかり持っているので舞花も一斗も素振りをしながら宥めている。 「仕方ないでしょ、じゃんけんで負けたんだから。五十回やったらちゃんと代わるし」 「けどよー、一斗は置いといても舞花はずるいよ。お前じゃんけん無駄に強いだろ、俺勝ったことないもん」 「あははー、それはまぁ……私の勘は無敵だし?」  春樹って力のいれ方でなに出すか分かるんだよねぇとはさすがに言えない。 「んだよそれ。……あ、これって先生来たら終わりじゃん! やっぱ不公へ、いー」 「なんだ、俺が来ちゃ悪いのか」
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