2人が本棚に入れています
本棚に追加
ひやり……その場にいた舞花、春樹、一斗、そして三人を見ていた千里の背筋が凍る。佐々木だ、素振りと話に夢中で来たことに気付かなかったのだ。
「い、いえ、何でもないです」
「そうか、ならいい。武藤号令」
「はい! 全員集合っ」
佐々木はいつも通り話出すが、四人の額には冷や汗が滲んでいた。
話が終わり、全員が散らばったところで舞花が佐々木に呼び止められた。
「なんですか?」
「昨日の怪我、まだ痛むか」
断定型で言われ舞花は渋々はいと頷く。
「無理すんな、今日は素振り終わったら」
「帰りませんよ!」
挑むように上目遣いで佐々木を睨む。佐々木ははっと笑って舞花の頭に手を乗せた。
「んなことするかよ。今日は試合はさせれないけど、の変り一年の面倒見ろって言おうとしたんだよ」
それでも舞花は不服そうだ。
「まぁそこは我慢してくれ。その代わり厳しくいって良いから」
「分かりました。ビシバシいきます」
舞花ニヤリとほほ笑んで竹刀を取りにいった。
素振りを終え、学年別に別れて練習をする段に入った。舞花は一年の部員を集めいつもより口調を強めて言う。
「今日は私が君達の練習を見ることになった。女だからって甘くみるなよ、厳しくいくから覚悟しとけ。分かったか!」
「はいっ!!」
一年からは威勢の良い返事が返ってくる。
「よし、じゃあメニューを説明する」
舞花は一年部員に相応しい練習メニューを素振り中に考え上げそれを説明した。そして練習を開始する。
練習は調子よく進み、誰もが何も疑わなかった。
しかし、いつかは気付くその異変に。
学年別の練習を終え、佐々木は道場を見回した。皆それぞれに休憩している。
「なぁ武藤、伊乃上を見てないか?」
「いえ……一年が知ってるんじゃないですか?」
「そうだな、ありがとう」
佐々木は入口付近に固まる一年に声を掛けた。
「お前ら伊乃上知らないか?」
「先輩なら所用があるからって僕らに最後の指示出して道場を出て行きましたよ。先生は知っているものだと……」
佐々木はそれを聞き焦る。当たり前だ、舞花が脱走したのだ。いつ、一体何処に……無事なのか。思わず声が荒ぶる。
「それは何分前だ」
「二十分くらい前かと……」
佐々木は道場の奥に向かって叫ぶ。
「武藤! 今すぐ着替えて来いっ。高津! 後は任せた。急げ武藤っ」
「はっ、はい」
最初のコメントを投稿しよう!