第四話 思いは何処へ向かう

15/27
前へ
/123ページ
次へ
 何が起きたか分からないなりに武藤は急いで制服に着替えてきた。 「あの、舞花に何かあったのですか」 「いや、まだ分からん。ただ……行方不明だ。だが何処に向かったかならだいたい予想が付く。来いっ」  二人は校門を飛び出し、舞花が確かに向かったと思われる、ある場所に向け走った。 「何か、嫌な予感がする」  空はどんより曇り空。それは太陽の光と熱を遮断しすべてを覆い尽くしてしまいそうで、また佐々木の不安を煽るばかりだった。 「何だか雨の降りそうな天気ね」  その頃舞花は自転車で病院まで飛ばしていた。そのせいもあってか、佐々木が異変に気付いた頃にはすでに病院に到着していた。もちろん服装は制服。さっき受付を済ませたところだ。 「伊乃上舞花さんですね? ご両親の元までご案内します」  待ち合席に座っていると、中年の看護師に声を掛けられた、 「はい、ありがとうございます」  看護師の案内で舞花は廊下を進んだ。彼女はその間ずっと頑なな表情を保っていた。長い廊下は真っ白無機質、それはもしかしたら延々続くのではないかとも思え、その度に胸が締め付けられる。 「ここです」  看護師に言われドアを見つめる。敢えて看護師はドアを開けようとはせずに舞花を見守った。 「親切にありがとうございます。しばらく、三人だけにしてもらえますか?」 「はい、もちろん」  舞花はスライドさせるタイプのドアを開けて一人で中に入った。  室内には白い布を顔に被せられ横たわる二人の人がいた。 「お父さん、お母さんなんだね。会いたかったよ」  舞花はそっと白い布を取って顔を見る。青白い、しかしまだ生きているようにも感じてしまう。 「何でなんだろうね、何で私達の家だったんだろうね」  舞花は床に膝をついて袖口で軽く目元を覆う。  それは両親の前で初めて見せた涙で、しかしそれを認識することは出来ない。舞花は薄暗い部屋の中、涙に視界を滲ませながら二人を見つめた。ずっとここにいたいとも思ったし、もう辛くてどっかに消えたいとも思った。  やがて舞花は立ち上がり、決意したようにそっと目を閉じた。 「お父さん、お母さんお別れだ。もう会うことはないけど、二人とも凄く感謝してるよ。私を生かしてくれてありがとう」  最後に二人の髪を軽く梳いて白い布を元に戻しドアに手を掛けた。まだ軽く後ろ髪を引かれる。けど振り返らない、振り返ったらもう出られなくなる。
/123ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加