第四話 思いは何処へ向かう

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 雨に降られて頭が冷えたのか仮面が安定してきたのか、舞花は当たり前のことを呟いた。しかしもう遅い。制服はブラウスまでぐっしょり濡れていて、長い髪もたっぷり水分を含んでいる。 「やばいなぁ……案外時間経ってる、兄さん怒るかなぁ怒るよなぁ」  舞花は盛大に肩を落とした。それほど怒られるのが嫌なのか、そうでもしないと本気で気落ちして仮面が剥れそうになるからか。  しかし、そんな呑気なことを考えてる場合ではなかった。そっと……舞花に近寄る怪しい人影が三つ四つ五つ六つ……。その中の一人、一番偉そうな奴が背後から舞花に声を掛けた。 「よぉお嬢ちゃん、いや……舞花ちゃん。ちょっと俺達と遊ばない?」  ゾクッとした。佐々木の時とは違う、もっと底冷えするような吐き気のするような……気持ち悪い。  舞花は反射で自分を責めた。なぜ気付かなかった、早く気付けば逃げられたかもしれないのに。  しかし仕方ない。今回は相手もこちらを警戒していた。気配を消して近付いてきたのだ。  舞花はははっと笑って振り返った。もう周りは完全に囲まれていた。しかも、人数が半端ない。 「何か御用? 名前を知ってるってことは昨日のお仲間さんね」 「正解。鋭いねぇ……俺の仲間が世話になったって聞いたんで挨拶に。まさかこんなに可愛い子だとわ思わなかったけど」 「それはどおも、群れを成さないと生きていけないような弱い溝鼠さん達」  挑発して隙を生む、そしてその隙をつき自転車で逃げる! それが舞花の単純明快な作戦であり最も正しい選択でもある。 「言うねぇ……けど、いつまで言っていられるかな」  男達は徐々に近付いてくる。舞花を追い詰めるつもりだろうが……甘い。  舞花は一気に自転車に跨がると下っ端らしい威勢だけの弱そうな男が溜まっている場所目掛けて走り出した。きっと退く、絶対退く、その予想通り男は驚いて道を開けた。そこを無心で通り過ぎる。  走れ走れ走れ、こげこげこげ! 捕まったらやばい……逃げろ。本能が舞花に告げる。舞花は本能のままに走った。 「すごいねあの子、度胸あるや。けど、残念ながらここは俺達チームのテリトリー……逃がす訳ない。お前らっ! バイク用意しろ」 「はいっリーダー」  やはり舞花に話しかけた男はリーダーだった。リーダーの男は不敵に笑って、仲間が用意したバイクに乗った。
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