第四話 思いは何処へ向かう

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 舞花は走った。しかし、相手もそう簡単には逃がしてくれない。いきなりバイクが飛び出してきたり、道を塞がれたり、捕まえられるのも時間の問題だった。そして……舞花は息を飲んだ。 「いき……止まり」  膝から崩れ落ちそうになるのを必死でこらえ元来た道を見据える。すでにそこには何人もの男達が壁となり立ちはだかっていた。その間を割って、リーダーと数人の男が前に出る。幹部陣営か。 「すごいね、君は今ショックを受けるべきではない、むしろ喜ばなくてはな。俺達にターゲットにされてここまで逃げ切ったのは君が初めてだよ。けど鬼ごっこはもう終わりだ」  男は一歩二歩と舞花に近付く。  舞花は大きく一回深呼吸した。湿った空気で肺がいっぱいになる。 「ここからが本番、とでも言いたそうね」  ニヤリと舞花は口許を歪める。 「分かってるね、その通りさ」  男はコキコキと指の関節を鳴らした。それに続くように下っ端の男達も戦う姿勢をとろうとし、それを別の男が手で制す。どうやら幹部だけで舞花の相手をするらしい。  何処か遠くで雷が鳴った。 「覚悟はいいかい? お嬢ちゃん!」  舞花は最も得意とする構えをとる。瞬発力に優れ相手を混乱させるのに適した構えだ。  まず一発、軽く避ける。続いて二発。もうここまでくると幹部だろうが何だろうが関係ない。今はただ、自分が生き延びることだけを考えろ。舞花は自らに言い聞かせた。  無駄な動きはしない。なるべく最小限に押さえる。理想は……そう佐々木のような。 「やるねぇ……ならこれはどうかな」  男は不意にナイフを取り出して舞花に襲いかかる。頬を軽く刃先がかすりピシッと血が溢れ出す。 「美女は赤も似合うって、ほんとだよね。いい血の色だ」  もうほとんど狂人だ。こいつらに人間らしさなんて一ミリも期待できない。舌打ちする。  舞花は向かってくる刃物を避けた。頭の上でプチッと音がする。瞬間舞花の結っていた髪がほどけふわりと舞い落ちる。髪留めが切られたのだ。ぎゅぅっと奥歯を噛み締める。それは母がくれた大切な髪留めだった。  その間にも男達は次々に蹴りやパンチ、刃物での攻撃をしてくる。すぐに舞花の限界もやってくるだろう。 「ダメだよ、叫んでも無駄。ここにはヒーローはやって来ない。アハハハハ」  しかし、そうとも限らなかった。
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