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佐々木、武藤は着実に病院までの道を進んでいた。舞花は逃げた際に本来の道筋からは外れたがまだそう遠くはなかった。もしかしたら、気付くかもしれない。だが問題が一つ、雨はひどくなる一方で雷もあちらこちらで鳴り響く。それはあらゆる音と音を吸収した。
奇跡でも起きなければ助けに行けるはずはなかった。
「そろそろ限界だろ、諦めろよ」
男は言った。舞花は聞かない。動きを止めたらもう二度と動けなくなる気がしたから。だが、体はそう上手くは出来ていない。いくら精神がへばってなくとも体はとっくに限界を越していた。不意に足下がふらつく。そこを狙いすましたように舞花の腹に強烈な拳を食らわす。
「うっ……」
完全に動きが止まったところで今度は後ろから羽交締にされた。もう身動きはとれない。
「やっと大人しくなってくれたよ。舞花ちゃん」
男は舞花の顎を親指と人差し指で挟んで上を向かせる。精々強がって睨んでみせろ舞花。
「おお怖い怖い……」
「汚い手で私に触れるな、下等」
パッと手を離しておどける男をさらに睨む。だがビクともしないそいつは、舞花は絶対に動けないと分かっている。実際その通りだ。今何をされても、動くのは口と瞼くらい、後は……。
男は次にブレザーのボタンに手を掛けた。スルスルと外していきブレザーの前を開ける。ベストを着ているので下着が透けたりすることはないが、それでも濡れているというのが興奮したのだろう。ヒューと口笛を鳴らした。
「綺麗な体してるねぇ、スタイルいいし、服を着てるのがもったいない」
気持ち悪い。吐きそうだ。見られてるというだけで寒気に覆われる。
「このリボン、いらないなぁ。ついでにブラウスのボタン開けちゃお」
襟の下に手を入れリボンを外す。露になった首元を見つめながらそいつはブラウスのボタンに手を掛けた。手が服越しに体に触れる。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。ゆっくり、時間を掛けてボタンを外す。第一だけなのに凄く肌を出した気になる。嫌だ、こんな奴に、こんな薄汚い下等に見られるなんて……最悪だ。
弱音だって言いたくなる。助けだって求めたくなる。誰に? そんなの決まってる。
「兄さん」
舞花は低く呟いた。男は気付いてないのか何も言わずに舞花まじまじと見る。
だが、気付いてる人もいた。それは奇跡というよりかは超能力と喩えた方が正しいかもしれない。
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