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完全に油断していた。追い詰められたリーダーが舞花を人質にして……いや、そうはいくか。
舞花は最後の力を振り絞り、ナイフを突き付けようとした腕を捻りあげナイフを落としそのまま宙に浮かせる。
一本背負い。
バシャーン
ちょうど水溜まりに叩き付けられたのだろう、辺りに水が飛び散る。
「舞花、大丈夫か!」
佐々木が慌てて駆け寄ってきた。さっきまでの鬼のようではなく優しい兄さんだった。
舞花はも佐々木に駆け寄る。
「兄さん」
その途中だった。誰かがくそぅと呟き苦し紛れに投げたナイフが舞花に飛んできた。舞花はいきなりのことで避けきれない。
「やっ……」
舞花に当たる寸前、佐々木が飛び出してきて、ナイフの柄の部分を掴んだ。佐々木は投げてきた方向を睨む。男達は竦み上がった。
「この名を知っているか? 昔この辺りに名を轟かせた奴だよ。知らないとは言わせねぇぜ。‘誠’よく覚えとけ。俺もなぁ誠って言うんだよ。同一人物とみるか他人とみるかはお前らの自由だ。だが、判断を誤るともっとひどい目に遭うのは覚悟しといた方がいい」
そして舞花に尋ねる。
「大丈夫か」
「あんま大丈夫じゃない、かな」
そのまま倒れそうになる舞花を佐々木はそっと支える。
舞花は衰弱しきっていた。そんな舞花を見兼ねて、佐々木は無言で背に負った。舞花の体は軽々持ち上がる。そして落ちていたリボンを拾い自転車を引いて道に出る。
裏道を出るとそこには武藤の姿があった。何とか追いつき、様子を見ていたらしい。いや、見ていることしか出来なかったのだ。武藤がここに着いた時にはすでに下っ端の連中はのびていた。奥を見る、そこには舞花と佐々木と数人の男……立ち入る隙がないことは武藤にも分かった。佐々木が動く、その早さに目が追いつけない。圧倒的に何かが違った。
「舞花は!」
奥から出てきた佐々木に武藤は縋るような声を出した。佐々木は口許を軽く緩めた。
「無事……という訳にはいかないが、大丈夫、今は疲れて寝てるだけだ」
確かに背負われた舞花は佐々木の首にしっかり腕を回しすやすやと眠っていた。その顔は安らぎに満ちていた。武藤も胸を撫で下ろす。
「ここまでついてきてくれてありがとう。最後に一つ頼んでいいか?」
尋ねる佐々木に勿論ですと即答する。
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