第四話 思いは何処へ向かう

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「舞花もでかくなったから流石に重くてな、自転車変わりに引いてくれないか? あと出来れば舞花だけでもいい、傘に入れてやって欲しい」  それは初めて佐々木に頼られた時だった。武藤は無性に喜びを感じつつ、その気持ちを押さえて行動に移す。 「はいっ!」  自転車のハンドルをしっかり掴み、傘を二本さして片手ずつもち、片方で二人を中に入れる。武藤よりも頭一個分背が高い佐々木だが、それくらいなら容易に入れることが出来る。大きめなので二人とも中に収まった。もう片方には自分が入る。 「ありがとう。こいつはいい友達を持ったな」  佐々木が呟く。武藤は友達という言葉に違和感を感じながらも、こちらこそありがとうございますと返事をした。  学校までは少し距離があったが、その後二人は一言も会話をせずに来た道を引き換えした。  学校に着くと佐々木は保健室に急いだ。ノックもしないで扉を開く。中には待っていましたよと言わんばかりに松島がこちらを見ていた。 「これはまた、死線を乗り越えてきましたといったような格好で……どうしました?」 「俺はいい、舞花を診てくれ」  佐々木はベッドに舞花を寝かす。 「すごく濡れてますね……これでは何もしなくても風邪をひいてしまう。葉月さん呼んできてもらえますか?」 「あぁ」  佐々木はまだ部活をやっているはずの道場に向かった。何も言わず礼だけして道場に入ると春樹にこいつ借りるとだけ言って千里を連行、残された春樹を始めとする部員達は一様に唖然としたが気にしない。千里は何か大変な事が起きていると感じたのか大人しくついてきた。  保健室に入り千里は目を見張る。それもそうだろう、びしょ濡れの舞花がベッドの上に寝ているのだから。 「葉月さん、君に頼みたい事がある。我々は教師であり男でもあるからね……何が言いたいかもう分かるだろ? 予備の冬用体操服がそこにあるしタオルもそこの棚に清潔なものがたくさん。後は頼みましたよ」  松島は立ち上がり佐々木の背中を押して外に出ると扉を閉めた。寸前に松島が一枚タオルを持て出たことに千里はもちろん気付いていない。目先の大役で一杯一杯なのだろう。
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