第四話 思いは何処へ向かう

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 千里に任された仕事、というのは簡単に言えば着替えだった。しかし脱力しきっている人間を着替えさせるのは簡単ではない。まずはブレザーとベスト、ブラウスを脱がせ体を丁寧にタオルで拭く。その時あることに気付いた。熱い、体が熱をもっている。おでこに手を当てた。……高い。千里は手を早めた。  体操服の上を着せて次は髪の毛。長くて量が多いので簡単に乾くとは思えない、ならばせめてとタオルで髪を包み込む。スカートもびしょびしょだった。靴下を脱がせまずは足を拭き、最後にズボンをはかせる。  そして再びベッドに寝せた。 「ふう……何とか一通り着替えが終わったや。それにしても舞花ちゃん、なぜ傘も差さずにこんな雨の中に」  千里は首を傾げる。すると舞花がうぅ……と声を上げた。ゆっくりと瞼を開く。 「舞花ちゃん! 起きて大丈夫なの? 何があったの? 気分悪くない? えっと、えっと……」  慌てふためく千里の口を塞ぎ舞花は軽く睨んだ。 「千里うるさい。頭に響くからちょっと静かにしてて。けど……」  口許を緩める。温かい笑みを浮かべる。 「心配してくれてありがとう。後、着替えも」 「舞花ちゃん……」  目をうるうるさせて千里は舞花に抱き付いた。舞花はその背中をポンッと叩いて相変わらず泣き虫ねと囁く。 「だってぇー……怖かったんだもん。舞花ちゃん熱あるみたいだし」 「あ、確かにそんな気が。けど熱があるってことは生きてる証だよ。よしよし、千里強くなったねよく頑張ったから。だからもう泣くなぁ」  舞花はちらりとドアの方を見る。窓には影が二つ……このままでは可哀想だなと舞花は苦笑い。 「佐々木先生、松島先生、入ってもいいですよ」  その言葉を聞いて肩にタオルをかけた佐々木が、次に笑顔で松島が保健室に入る。佐々木がかけているタオルも保健室のものなので、松島が保健室を出る前にとったのだろう。 「伊乃上さん、体調はいかがですか?」 「少し熱があるくらいで、後は特に」 「そうですか、では熱を計ってもらいましょう。後頬の傷も消毒しましょう」 「ありがとうございます」  舞花は松島に消毒をしてもらい絆創膏をした。そして脇に体温計を挟む。  少ししてピピピッと音を鳴らす。 「六・九……微熱ね」  舞花は電子板を見てそう呟いた。それを聞いて松島も頷く。
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