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千里に任された仕事、というのは簡単に言えば着替えだった。しかし脱力しきっている人間を着替えさせるのは簡単ではない。まずはブレザーとベスト、ブラウスを脱がせ体を丁寧にタオルで拭く。その時あることに気付いた。熱い、体が熱をもっている。おでこに手を当てた。……高い。千里は手を早めた。
体操服の上を着せて次は髪の毛。長くて量が多いので簡単に乾くとは思えない、ならばせめてとタオルで髪を包み込む。スカートもびしょびしょだった。靴下を脱がせまずは足を拭き、最後にズボンをはかせる。
そして再びベッドに寝せた。
「ふう……何とか一通り着替えが終わったや。それにしても舞花ちゃん、なぜ傘も差さずにこんな雨の中に」
千里は首を傾げる。すると舞花がうぅ……と声を上げた。ゆっくりと瞼を開く。
「舞花ちゃん! 起きて大丈夫なの? 何があったの? 気分悪くない? えっと、えっと……」
慌てふためく千里の口を塞ぎ舞花は軽く睨んだ。
「千里うるさい。頭に響くからちょっと静かにしてて。けど……」
口許を緩める。温かい笑みを浮かべる。
「心配してくれてありがとう。後、着替えも」
「舞花ちゃん……」
目をうるうるさせて千里は舞花に抱き付いた。舞花はその背中をポンッと叩いて相変わらず泣き虫ねと囁く。
「だってぇー……怖かったんだもん。舞花ちゃん熱あるみたいだし」
「あ、確かにそんな気が。けど熱があるってことは生きてる証だよ。よしよし、千里強くなったねよく頑張ったから。だからもう泣くなぁ」
舞花はちらりとドアの方を見る。窓には影が二つ……このままでは可哀想だなと舞花は苦笑い。
「佐々木先生、松島先生、入ってもいいですよ」
その言葉を聞いて肩にタオルをかけた佐々木が、次に笑顔で松島が保健室に入る。佐々木がかけているタオルも保健室のものなので、松島が保健室を出る前にとったのだろう。
「伊乃上さん、体調はいかがですか?」
「少し熱があるくらいで、後は特に」
「そうですか、では熱を計ってもらいましょう。後頬の傷も消毒しましょう」
「ありがとうございます」
舞花は松島に消毒をしてもらい絆創膏をした。そして脇に体温計を挟む。
少ししてピピピッと音を鳴らす。
「六・九……微熱ね」
舞花は電子板を見てそう呟いた。それを聞いて松島も頷く。
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