第五話 小さな幸せと果てなき想い

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 翌日、舞花は卵の焼ける良い音に夢から現に意識が帰る。ふわぁと大きな欠伸を一つ。ゆっくりとベッドから足を下ろす。時刻は午前六時半、まだまだ家を出るには余裕の時間だ。棚に置かれた鏡の前で軽く髪をと梳してから、ダイニングに向かう。いい匂いも漂ってくる。 「兄さんおはよ!」 「おはよ。調子はどうだ?」  舞花は思い出したように額を押さえる。全く持って、平熱だ。頭痛もしない、だるくもない、健康そのもの。 「大丈夫そうだな、安心した」  佐々木は安堵したのかふっと笑った。舞花もつられて微笑む。 「ご心配おかけしました。ありがとう兄さん」 「昨日も言ってたけどな、どう致しまして。朝飯、机に置いてあるのでいいか?弁当ももうすぐ出来るから」  佐々木は慣れた手つきで卵焼きを均等に切り分け弁当箱に詰めていく。他にもサラダや野菜肉炒め、ウィンナーが綺麗に並べられていく。 「ごめんね、明日は私が作るよ。一応お世話になってる身なのに何もしないんじゃ悪いからね」 「おお、頼んだ」  舞花は任せなさいとピースして朝食を取り始めた。 「ごちそうさま。洗い物は私がするよ」 「いや、学校に行く準備終わってないだろ。今日は俺がやるよ」 「ごめんね」  手を合わせて軽く頭を下げると舞花は小走りで部屋に駆け込んだ。部屋を見回し、一瞬考えてポンと手を打つ。制服どこだ? 「兄さん! 私の制服知らない?」 「それならそこの窓際に干してある。もう乾いただろ」 「ありがとう!」  制服を手に取りまた部屋に戻る。ブラウスはクローゼットから出す。数分で着替え洗面所に移動し、歯磨きをする。顔も洗ってさっぱりさせる。ポニーテールもバッチリだ。  舞花はダイニングでお弁当を包む。そんな舞花の姿を捉え佐々木は微かな違和感を感じた。何か足りない。  何だ、決定的な何かがない。なんだ……あっ。佐々木は思い出すと舞花に尋ねた。 「今日は頭にリボンしないんだな。いつもヒラヒラの付けてるだろ?」  舞花は急に話しかけられ驚いたのか、肩がピクッと跳ねる。 「あ、あぁこれは、昨日切られちゃってね」  それを聞いて瞬時に何があったのか理解したのか、佐々木は少し深刻な面持ちになる。確かに昨日舞花を発見したときは髪が解けていた。 「悪い」 「何謝ってるの? 私は兄さん達が来てくれたから助かったんだよ。髪留めはまた買えばいいし」 「そうか」
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