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佐々木の表情はまだ暗い。知っていたのだ、あの髪留めは舞花のお母さんが贈ったもので舞花が大切にしていたことを。両親を亡くし、大切ものを無くし、舞花はどれほど傷ついているのか。この笑顔は、どれほど無理して作っているのか。真の笑顔をまた見ることは出来るのか。
今、仮面の裏ではどれほど泣いているのだろうか。
それは佐々木にも見当がつかなかった。そうであるとしか、分からなかった。また、そう深く思い悩む佐々木自身も辛いのだろう。
ふと佐々木は驚いたような顔になる。
「あれ? そういえばお前、兄さん"達"が来てくれたからって言ったか?」
「うん。何か変だった?」
「いや、知ってたんだなと思って」
確かに、舞花は武藤と会う前にもう気を失ってたはずだ。なぜ佐々木以外にも来ていたと知っているのだ。
「あぁそれは、兄さんに背負われてる時一瞬だけ意識が戻ってね、微かに目を開けると隣りに誰かいたから」
「俺が背負ってたことも気付いてたんだな」
「それはまぁ感覚で。あんなに安心して眠れるのは兄さんの車と背中くらいかなぁと……」
舞花は佐々木から視線を逸らし、頬をかいた。照れているようだ。
「まだまだお子様だな、舞花は」
佐々木がくすっと笑い、舞花はムッとして噛み付いた。
「うるさい! そんなことより、隣りにいたのって誰なの?」
「何だ、分からなかったのか」
「予想はついてるけど確証がないだけだよ」
「予想っていうのは? 間違ってもいいから言ってみろ」
なぜか佐々木は先生口調で尋ねる。まぁ本業が教師なら仕方ないかもしれないが舞花は少し不満げだ。
「間違っても笑わないでよ。……一斗、だったんじゃない」
「どうしてそう思う」
「えっと、部活中に私の失踪に気付いて探しに来るとしたら、連れてくるなら一斗かなって」
「流石舞花といったところか、お見事、正解だ」
相変わらず先生口調の佐々木に舞花は心の中で首を捻る。佐々木が残念そうなのは気のせいだろうか、それとも答えられたのが不満なだけ?
「そろそろ家出るぞ。用意は?」
「オッケーですよ。先生」
二人は揃って玄関を出た。
真っ黒でストレートの綺麗な髪、切れ長の目、雰囲気……どれもそっくりな二人。しかし今は、互いに気持ちが交錯し混ざりあいすれ違う。結び付くには、後何時
なんどきか。
「舞花、俺はお前を待っていたぞ!」
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