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教室に入った途端、舞花は春樹に腕を掴まれた。その腕を上下に振られる。
「またこの時期が来たか。春樹、それが人にものを頼む態度? って何回言わせれば分かる。私言ってるよね、テスト一週間になると毎回毎回……」
「悪い、いやすみませんでした! 俺に勉強を教えて下さい」
春樹は慌てて腕を離しきっちり九十度に頭を下げた。舞花はやれやれといった風に息を吐く。
「今回は私もあんま勉強してないから良いアドバイス出来るか分かんないよ。それでも?」
「全然いい、お願いします」
春樹の面倒をみるということは……自動的に千里もか、とは思うものの口には出さないのが舞花の優しさだ。
それにしても、テストのことなんてすっかり忘れていた。色々あったから仕方ないか。それに、一人で勉強しても手につかなさそうだし。やっぱ一人になると考えちゃうからなぁ。もう割り切ったと思ったのに、辛いものは辛いな。
「舞花、何ぼーっとしてんだ。珍しい」
その声で現実に引き戻される。いけない、みんなの前では平然としてなきゃ、と思っているのは事情を知っている者が見たら明白だ。
「そういえば、朝千里が変なこと言ってたけど、お前どうかしたのか?」
「変なことって?」
「体は大丈夫かなとかなんとか、舞花のこと心配してた」
あぁ千里言ってないのか。あの子なりの気遣いなのかな、春樹には言ってもよかったのに。
「うんまぁ、昨日色々あってさ。今日の朝一緒に行けなかったのもそんなわけで、また後で詳しく話すよ。今は、勉強でしょ」
「それもそうだな。あぁ早く夏休みにならないかな……」
「夏休みはほとんど毎日部活だねー」
さり気ない舞花の一言に春樹が苦い顔をする。
「なにその顔、春樹は部活嫌なの? 部活に来れば千里にも会えるのに」
「バカッ、ちげぇよ。ああ部活楽しみだなー」
「合宿もお忘れなく」
舞花はニッコリ笑顔でそう言い残しさっさと自分の席に戻る。小説を開いてパラパラ捲り、無意識に溜め息をついた。
そういえば、この小説の主人公は大切な友達を目の前で亡くすんだよな、と思い不意に頭の中をある人の顔が過ぎ去った。
「一斗……」
「何かようか?」
「……えっ、いつの間にそこにいたの。ビックリさせないでよ」
舞花が見ると、すでに隣席には一斗が座っていた。ぼーっとしていた舞花は気付かなかったようだ。
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