第一話 平和な偽り

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 春樹は車の後部座席に乗り込むなりそう呟いた。舞花もその隣りに座る。 「以外とってなんだよ。まぁいい、出すぞ」 「はぁい」  返事は仲良く二人でハモり、お互い顔を見合わせて笑った。  車の中でどうでもいいような話をしていたら、あっという間に高津家に到着した。 「佐々木先生、ありがとうございました。舞花も最後まで付き合ってくれてありがとな」 「どう致しまして。また来週ね。今度は少し逆走になるけど私がここまで迎えに来てあげるから安心して」 「へいへい」  軽く挨拶を交わして、次に車は伊乃上家を目指して進み出した。 「おい舞花、すぐに着くから寝るんじゃねぇぞ……って、すでに寝てるし」  佐々木は後部座席をちらりと覗いて、ふっと笑った。 「昔からよく寝るよな、こいつ。普段は威張ってるくせに、たまに可愛くなるんだからやめて欲しいぜ」 「おい舞花、舞花! 着いたぞ起きろ!」 「ふぇ? ……えっ、私寝てた!?」 「あぁ、ぐっすりとな」  舞花はうぅうと唸った。 「唸ってないで早く降りろ」 「はいはい、そんな怒らないでよ。兄さん気性荒いのに運転上手いから、全く」  と言って舞花は大人しく降りた。佐々木は何か言いたげだが寸前で飲み込んでいる。まぁ言いたいことは何となく分かるがな。 「あれ、兄さん家寄るの?」 「あぁ、久し振りに叔父さんと叔母さんに挨拶しようと思って」 「ふーん。なら絶対に夕飯家で食べてくことになるね」 「それはありがたいな」  珍しく仲の良い従兄弟の会話をしている二人。これが普通なはずなんだが敢えてそこには振れないでおこう。  舞花は鞄から鍵を取り出して玄関のドアを開ける。  舞花はいつものように靴を脱ぎながら言った。 「ただいまー」  そのワンテンポ遅く佐々木は言う。 「お邪魔します」  二人ともよく通る声で、もちろん部屋の中にも聞こえているはずだ。しかし奥から返事は返ってこない。  両親の靴はある。いつもならここで返事があるのに…。舞花は何か嫌な予感がし、急いで家に上がりリビングの扉を開いた。 「あ……いぃ、いやぁあぁぁぁああ!」 「どうした、近所迷惑だ……んなっ」  舞花はその場に膝を突いた。佐々木も驚き戸惑っている。  二人が見てしまった風景。それは、惨状と表すにふさわしいものだった。
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