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「別に驚かすつもりはない。というか、お前が先に俺の名前を呼んだんだろ。気付いてないのか?」
舞花はうそ……と呟いて思考を巡らせる。そして思い出す。
「私声に出してたんだ、うわぁ恥ずかしい」
どうやら知らなかったようだ、自分が一斗の名を呼んでいたことを。舞花は頭を抱えて机に突っ伏した。腕の隙間から少しだけ覗く顔が赤いのは気のせいではなさそうだ。
「珍しいな、舞花が無意識に言葉を発したり俺がいることに気付かなかったり」
「うるさい、本に夢中だったのよ。私だって常に周りの気を感じてるわけじゃないの」
「本、読んでなかっただろ。捲ってただけ」
「ち、違うわよ! 速読よ!」
「お前は熟読派だろ」
「えっとそれは……もう読み終わった本だから簡単に内容を確認しようかと」
「そんなこと本当はしないだろ」
「……この本が伝えたいことを自分なりに思索してた」
「で? 真偽の程は」
舞花は余計に小さくなる。顔はもう見えないが、ふてているのは一目瞭然だ。小さな声が聞こえる。
「半分ほんとで半分嘘」
一斗ははぁと息を吐く。
「ほんとの部分は例えばどこだ」
「内容を思い出してたとこ」
「ほとんど嘘じゃないか」
舞花は黙り込む。少し震えているのは悔しさからか怒りからか。ゆっくりと顔を上げ一斗を睨む。
「うるっさいわね……私が嘘吐いちゃいけないって誰が決めたの!? 大体、口げんかなら私に勝てると思ってるんだろうけど、今回はたまたま油断してたからよ。普段だったらこうはいかないから、分かった?」
「はいはい分かってるよ。で、いつもは油断していない舞花が今日に限って油断していたわけは?」
「一斗には関係ない」
「俺の名前を呼んどきながら?」
「それとこれとは話が違う」
「違わないだろ」
その時二人の肩に同時に手が乗った。見るとそこには春樹がいる。
「どうしたんだ? お前らが喧嘩なんて珍しいな、なにかあったか?」
「春樹には関係ない」
二人同時に言われ春樹は半泣きでその場に丸くなった。舞花は慌てて春樹を慰める。
「ごめん春樹、そんなつもりで言ったんじゃなくて、ごめんね! 喧嘩は、そのー私が読んでた小説に出てきた人が一斗に似てて、思わず一斗の名前呼んじゃって、それでまぁ言い争いになっちゃって。春樹は悪くないから泣くなぁ」
舞花はしおれている春樹の頭を撫でた。そして一斗を見る。
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