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舞花は佐々木を見て無意識に溜め息を吐くのだった。
放課後、掃除が終わるとすぐに舞花は図書館へ向かった。特別に凄いわけではないが中々に立派な佐倉高校の図書館には机と椅子も沢山あり、テスト前になると多くの生徒がここに集まる。舞花もそのうちの一人だった。
「お待たせ、春樹に千里。少しは問題解いた?」
「あ、舞花ちゃん、掃除お疲れ様。私は今、問題集の提出範囲やってるところ。春樹君は?」
「……俺もそのはず、けど全く分かんない」
春樹は人差し指と中指を器用に使ってシャーペンを回しながら数学の問題集と睨めっこしている。
「どれどれ……ああこれは少し難しいかも。私もこれには頭使ったからね」
春樹の隣りに座り、問題集を覗き込む。
「でも春樹にしてはここまでよくやったね」
「前の補習で舞花と先生に教えて貰ったところだったからなんとか」
「へー、偉い偉い。これだけ出来れば後は気付くか気付かないかなんだけどな、取りあえずヒントあげるよ」
舞花は春樹の問題集に自分のシャーペンで少し言葉を付け足す。すると春樹は目を丸くした。
「もう分かるでしょ? 後は自力で頑張りな。もし答え見ても分かんなかったら呼んで。千里も、遠慮しないで分からないことがあったら聞いてね」
「うん、ありがとう舞花ちゃん」
笑顔の千里に舞花も笑顔で答え、鞄から英語の問題集を引っ張り出して自らも問題を解き始める。
舞花のペンはスラスラとノートの上を滑り、達者な筆記体が刻まれていく。その顔は真剣そのもので、視線はノートと問題集を一定間隔で行き来する。舞花の集中力は凄かった。
何分経った頃だろうか。舞花はいつの間にか勉強する教科を社会に変え、ノートをまとめていた。
一息つこうと顔を上げると、そこには申し訳なさそうに舞花を見つめる瞳があった。
「千里、どうした? 何か質問?」
「うん、ごめんね。舞花ちゃんも勉強しなくちゃなのに、迷惑だよね」
「何言ってるの。気にしないで、私は好きで教えてるんだから。それに、今はこうしてる方が楽だから」
最後の方は話しているというより呟きに近く空に消えた。千里と春樹はその言葉の意味を直感していたが、敢えて触れようとはしなかった。舞花も触れられたいとは思っていないはずだ。
すーすー、舞花の隣から気持ち良さそうな寝息が聞こえてくる。
……ん、寝息?
「春樹、千里は頑張ってるのにお前というやつは」
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