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「千里、自信がないのは誰だって同じよ。私だって不安で一杯。けどね、だからといって俯いたり、泣き言を並べても何も変わらないの。私達はテストで良い点を取りたい、ならどうする? 勉強をするしかないでしょ。なんだってそうよ。練習しなきゃ何も出来ないんだから、今やれることを力一杯やる。それでも悔しい思いをしたなら次頑張るしかない。ね?」
千里はゆっくりと顔を上げ頷く。その目にはもう迷いはない。不安と恐怖で一杯だけれど、その分頑張るぞという勇気も溢れている。
凄い……春樹は思った。俺がうだうだしてる間に舞花はあれだけの言葉を考え述べ、千里を勇気づけた。綺麗事や慰めなんかではなく真実をありのまま伝え、それでも勇気を与えた。力強いまなざしと、説得力のある言葉で。
俺には出来ない。どう頑張っても不可能なことを舞花は意図も簡単にこなして見せる。これはそこら周の男子が惚れるわけだ、と納得し、けど俺は違うと首を振った。俺は、舞花みたいにはなれないけど、それでも俺なりに千里を守るんだ。
「さ、早く図書館を出ましょ。司書さんに怒られちゃうよ」
「そうだな。千里、帰ろう」
春樹は千里に手を差し出す。何の迷いもなく千里はその手を取った。
「なんだ、ちゃんと彼氏の顔になってるじゃない。安心安心」
「からかうなよ舞花」
「からかってなんかないわよ。ただ本当に、嬉しいだけだよ」
三人は揃って図書館を出る。春樹と千里が校門に向かうのを舞花は見送った。
「今日は私、自転車じゃないからさ。先生まってなきゃいけないから」
「そうだったね、残念。明日は一緒に行けるの?」
千里に問われて舞花はニッコリと微笑んだ。そしてもちろんと頷く。
「じゃあまたな舞花、明日もよろしく」
「うん。明日古典の小テストあること忘れてないよね?」
「あっ……何でもっと早く教えてくれないんだよ!」
「やっぱ忘れてたんだ」
春樹が舞花に噛み付くのを見て千里はくすっと笑った。もうさっきのように不安げではない。
「くそぉ、絶対に良い点取ってやる」
「頑張れー、応援してるよ。じゃあまた、まだ明るいから大丈夫だと思うけど気をつけて帰ってね」
舞花は春樹の言葉をサラッと流し、千里に向かって手を振った。千里もまたねと言って振り返し、春樹はふんっと逆を向き歩き出す。千里が小走りで春樹を追いかけ、少ししてから春樹が振り返らずに片手を上げた。
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