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「そうなんだけどね。図書館では春樹や千里に勉強を教えながらだし、なんか……不安でさ。千里に向かって立派なこと言った手前、自分も頑張らなくちゃって。というか、あれは自分自信に言い聞かせてたんじゃないかって今更ながら思って。あ、あれって言っても兄さんはその場にいなかったから知らないか。とにかく、今は勉強していたいというか、してないとどこかそわそわしちゃって。それに」
舞花はそこで一回言葉を切った。姿勢を正し、真っ直ぐに佐々木を見つめる。挑むような、そんな瞳。
「それに?」
佐々木は続きを促した。
「それに私、負けたくない人がいるんだ。そいつには、何がなんでも負けたくない。勝りたいとは思わない、けど……負けたくないんだ。あれ? 何か矛盾したこと言ってるかな私」
はにかみながら視線を佐々木から外した舞花の肩に、そっと両手を置いて顔を覗き込む。
「にい……さん?」
いつになく真剣な眼差しの佐々木に少し焦りながら、舞花は佐々木の視線を受け止めた。それが最後、逃れられない。
「その、負けたくない奴って……武藤か?」
どくん、と胸が高鳴る。ときめきではない。じゃあ何? 恐れ?
舞花は暴れる心臓を何とか押さえ付ける。
「うん。その通り、だよ」
舞花が言い終わる前に佐々木はきつく舞花を抱き締めた。
「ちょっ、兄さん?! どうしたのいきなり」
「覚えてるか? 昨日の約束」
「えっと、キスのことかな」
「あぁ。今更取り消すとかないからな」
舞花の返事も聞かずにそのまま壁に押しつけてキスをする。抵抗する隙も考える間も与えない。捕まえ押さえ込み飲み込んでゆく。狙った獲物は絶対に捕らえる。その姿、まるで狼。そういえば昔佐々木は‘漆黒の狼’と呼ばれていたらしい。だが、今はそんなこと関係ないのかもしれない。
「にいさん……どうしたの、急にこんな、んっ」
話そうとする舞花の口を塞ぐ。熱い、頬が火照る、あてられる。鼓動が押さえきれない。思考が閉ざされて、兄さんでいっぱいになる。
「……分からないか」
ほんの少しだけ口を離して尋ねる。荒れる息を整えながら尋ね返す。
「なに……を?」
「俺がこんなことをした訳だよ。聡い舞花だ、勘づいてるんじゃないか」
黙り込む。そうだ、何となく分かっていた。けど、どうしよう。嬉しいとか思ってる自分がいる。
「一斗の、こと?」
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