真実

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俺達の前に現れた人物。 それは、初老の人間だ。 髭を生やしたそのオッサンに、俺は見に覚えがあった。 ルペス村を訪れた際に、リースの営む宿屋で宿泊した時の事だ。 宿屋のロビーに飾られていた、人物の肖像画。 そこに描かれていた人物に、そっくりだった。 っていう事は……。 つまり……。 俺が、ある答えを導きだそうとした時。 「ダグ……」 ミリアがそう小さく呟いた。 やはりか。 思った通り、俺達の前に姿を表したこのオッサンこそ、ダグ・フェルゼンだった様だ。 その介入により、叡人は振り返りながら反応した。 「部外者は引っ込んでいてもらおうか! この者達には聞きたい事が――」 叡人は振り返りながら、そこまで言った後、ダグ・フェルゼンの顔を見て発言を止めた。 そして、言葉を変えていた。 「あ、貴方は…… ダグ博士!」 ん? 叡人が恐縮している。 そうか。 確か、ダグ・フェルゼンは有名人だったな。 恐らく、それなりの権力者なのだろう。 だから、叡人はダグ・フェルゼンを見て急に態度を改めたのか。 ダグ・フェルゼンは叡人に言った。 「いやいや、儂は部外者ではないぞ? そこの者達の知り合いなのじゃからな なにか、問題があったのかの?」 「――! そ、そうだったのですか!?」 「あぁ、そうだとも 今日、ここで会う約束をしておったのじゃ」 ん? 会う約束なんかしてないぞ? まさか、話を合わせてくれているのか? だとしたら、ダグ・フェルゼンはなかなか空気が読める奴みたいだな。 ダグ・フェルゼンは続けた。 「儂の友人達が、なにかしましたかな? ギルドの憲兵さん」 「い、いえ…… 特には……」 「なにか、聞きたい事があるんじゃなかったのかえ?」 「いえ、大丈夫です ダグ博士の知り合いとの事なので、問診の必要はないと判断しました」 「そうかの なら、もう行ってよいぞ お勤めご苦労じゃった」 「はっ! では失礼します 申し訳ありませんでした」 叡人はそう言って、俺とミリアに謝罪した後、去って行った。 冷静に考えると、叡人は何も悪く無いんだよな。 俺が変な暴言を吐いたのが、いけなかったんだし。 なんで俺は、あんな事を言ってしまったんだ? "デゼル"って、どこから思い付いた名前だよ。 まぁ、いいか。 それより。 俺はダグ・フェルゼンと向き合った。
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