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「では……
読んでみてくれるかの?」
ダグ博士は俺に、石板を読む様に言ってきた。
なんだ?
疑っているのか?
いや、そんな感じじゃないな。
単に、石板の内容が気になるだけか。
でもな……。
この石板に記されている事……。
あまり、読みたくないんだよな。
内容が酷だ。
だが、読まざるを得ないよな。
覚悟を決めていた俺は、その"日本語"をコイツ等に分かる様に訳して伝えた。
「分かりました
この石板には、こう記されています
『世界は滅亡した
サナエ、アキ
済まない
お父さん、負けてしまったよ
僕は、おまえ達を守る事ができなかった
世界は終わってしまったんだ
せめて、おまえ達の最期が安らかなものだった事を願う』
」
…………。
石板に記されていた内容は、愛する家族へ向けたと思われる最期の言葉だった。
俺は、この言葉を声に出す事によって、ようやく現実を受け入れられた。
俺はずっと現実逃避をしていた。
この世界の連中と過ごす日々を送り、知らず知らずの内に、あの出来事を記憶から消していっていた。
いつまでも、逃げてばっかりだった俺だが。
今、自らの措かれている状況を再認識した。
結論を言うと……。
この世界は元地球だ。
何が"異世界"だよ。
全然、"異"じゃあねぇ……。
本当は、俺自身この真実を知っていたのかも知れない。
だが、認めてしまうのが怖かった。
俺の故郷が、消えてしまった事実を受け止めるのが怖かった。
だが……。
石板を読んでみて、はっきりした。
俺がこの世界に転送された後でも、戦いは続いていたのだと……。
そこには、様々な人の想いが渦巻き、葛藤し、無念のまま死んでいった同志が居た。
しかし、無情にも滅亡した。
いや……。
俺が居る限り、滅亡はしていないな。
戦いはまだ続いている。
俺はただ独り、この戦いに取り残されたんだ。
このクソッタレた、ファンタジーな世界で。
戦いの最前線に……。
この、
ファンタジー戦線
に。
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