真実

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俺が交渉した事。 それは、この古びたタモサンの譲渡だった。 俺の要求に、ダグ博士は……。 「なんじゃと!? だ、駄目じゃ これらは全部、儂の宝物なんじゃ」 応じなかった。 チッ……。 ここの物の価値は理解している様だが、正体を知らないくせに何を言ってやがる。 何が宝物だよ。 ただ、保管室に寝かしているだけじゃあ、宝の持ち腐れだぜ。 俺に渡せば、有意義に使えるかも知れないっていうのに……。 何とかして、もらえないものかな……。 ここは交渉材料として、ダグ博士の自責の念に問い掛けてみるか。 俺は先程、利用しようと考えていた手段を使う事にした。 「ダグ博士 コレは携帯端末機と言ってな 太古の人の思いが、情報として収められているんだ」 「太古の人の思いじゃと?」 「そうだ ダグ博士が描いた『翼の神』に登場した"ヤミビト"達の思いだ あのヤミビト達にも、それぞれの葛藤があった事を、ダグ博士は知った筈だ」 「むぅ……」 お、効いてる効いてる。 ここらで、押してみるか。 「ダグ博士 石板に記されている人の思いを、アンタも感じたよな? この携帯端末機の中にも、そんな人の思いが詰まってる」 「…………」 「この中に閉じ込められている、かつての同志の無念の思いを、生き残った俺が、せめて聞いてあげたいんだ」 するとダグ博士は。 「修復させる見込みはあるのかの?」 確認をしてきた。 お、手応えありだ。 「ラロの民の末裔とやらに、心当たりがある ソイツを当たってみるつもりだ」 「分かった カズくんがそこまで言うなら、仕方あるまい ソレを君に譲ろう」 ダグ博士は、俺にタモサンを譲ってくれた。 情に訴える作戦がうまくいったな。 やったぜ。
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