相違

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俺がナイフを取り出した理由。 それは、なんとしてもラクターから抜け道の場所を聞き出す為だった。 手段を選んでいる暇はないからな。 ナイフをちらつかせる俺。 そんな俺をラクターは。 「え…… カズさん?」 困惑した様子で、見ていた。 フン。 ガキを籠絡するなど、容易い事だ。 正当な手段で聞き出せないのなら、多少の"犠牲"もやむを得ない。 俺はナイフの刃先――ではなく柄をラクターに向ける。 そして言った。 「ただでとは言わねぇよ 代わりにコレをやる」 そう。 ガキに物事を頼む時は、物品で誘惑するのが一番だ。 ラクターは俺に憧れている。 だったら、俺の持つ武器はとても魅力的に見える筈だ。 ナイフを失うのは、正直大した痛手にはならない。 これを代償に、抜け道への場所が聞き出せるのなら安いものだ。 俺の持ち出した取引にラクターは。 「コレを僕に? 決闘の時、ガルムさんから聞いた事があります この短剣は、ものすごい技術で造られているものだって そんな大事な物を僕に……?」 心が揺らいでいた。 よしよし。 「あぁ ただし、抜け道への場所を教えてくれたらな さぁ? どうする?」 敢えて急かす俺。 こうする事で、ラクターの判断力を鈍らせる。 ラクターの性格を鑑みて、ノエルから他言するなと言われた時点で、抜け道を聞き出す事は無理だ。 だが、その言い付けを破ってあまりある対価を提示されたらどうだ? ラクターはまだ子供だ。 そして、大事な事だから繰り返すが。 ラクターは俺を尊敬している。 つまり、ラクターにとって俺はヒーロー的存在だ。 俺に抜け道を教えない理由など、もはや皆無だ。 そんな俺の思惑を知ってか知らずか、ラクターは決断をした。 「分かりました! カズさんになら教えても大丈夫です!」 やったぜ。 チョロいもんだ。
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