相違

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レイナは語り出した。 「私の前世の事は言ったよね?」 「あぁ 確か、OLだったか?」 「そうよ あの時の日々は、今思い出しても嫌な事ばかりだったわー」 「というと?」 「人間社会っていうのは、嫌悪な出来事ばかりなのよ 先輩には、無理をしてでも話を合わせなきゃだし、 上司には媚びを売って、気に入られなきゃだし、 取引先には頭を下げて、契約をとってこなきゃだし とにかく、色々と面倒くさくて大変なのよ」 「愚痴はいい まさか、そんな日常を壊された事で、ニルヴァーナを肯定した訳じゃあないだろう?」 「それもあるよ けど勿論、それだけが理由じゃないよ」 否定しないのかよ。 だが、それだけが理由じゃないってどういう事だ? 「なんだと?」 「カズも地球を知っているなら、分かる筈よ」 「何が?」 「地球と比べて、この世界がどんなに素晴らしいのかをよ」 「は?」 「分からない? この世界の人々はね、自然と共存しているのよ 澄んだ空気を感じながら、生い茂る木々に紛れて、魔物を狩る まさに、自然の一部 素晴らしいと思わない? あんな地球での暮らしより、断然こっちの方が良いわ」 ふむ。 確かに、素晴らしいな。 そんなファンタジーな暮らしに、憧れた事がないと言えば嘘になる。 ストレス社会から抜け出して、そんな暮らしをしてみたい。 そう思った事もある。 だが、憧れるのは、それが非現実的なフィクションだからだ。 現実とは違う。 俺は実際に、この世界で日常を送っていたが。 実情は、日々魔物との戦闘で、絶えず命懸けだ。 レイナがそんな事を言えるのは、自分が安全圏に居る王様だからだろ。 俺は、そんな自分の考えを述べた。 「理解できないな 一般人からしたら、死と隣り合わせの任務ばかりで、たまったもんじゃない それに比べて、地球での暮らしは、命が危ぶまれる事は滅多になかった 俺は地球の方がマシだ」 俺の考えを聞いたレイナは、一言呟いた。 「見解の相違ね」
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