相違

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「どうしても、どけないか?」 俺の再確認に、ノエルは強情を押し通す。 短剣を構えて、それを俺に向けた。 「ど、どうしてもここを通りたかったら、私を…… こ、殺してみなさいよ!!」 ノエル……。 それが脅しのつもりか? 声も手も震えてるじゃねぇか。 慣れない事はするもんじゃねぇぞ? だが、そうだな。 退く気がないって言うなら、仕方ない。 「よし、分かった」 俺がそう返すと。 「え……」 ノエルの表情は、途端に悲哀に満ちた。 おいおい。 なんだその顔は。 お前が、言った事じゃねぇか。 っていうか……。 「おい 冗談だよ マジにするなよ」 そう。 流石に、人を殺めてまで脱出しようとは思わない。 まぁ、脱出はなんとしても成すつもりだが。 俺は人殺しなどしない。 俺のその発言に。 「ほっ……」 と、リコが安堵した。 なんで、お前がそんな反応するんだよ。 と、思った時。 「変な冗談はよしてよ」 ノエルが俺に侮蔑な視線を向けていた。 なんで俺が責められるんだよ。 その冗談を本気する方が、どうかしてるぞ? 「おいおい 殺す訳ないだろ 俺をなんだと思ってやがる」 「カズは優しい人よ だけどね 今のカズには、その発言を本気に感じ取らせてしまう程の何かがあるの」 ん? なんか、その言葉。 さっきもリコが似た様な事を言っていた様な。 それが、俺の変化だとしたら心外だな。 まぁ、他人にどう思われ様がどうでもいいがな。 「そんな事知るかよ だが、ノエル そこは通してもらう」 俺は、ノエルの構える短剣などお構いなしに歩き出そうとした。 その時。 「カズはさ あの時の話、まだ覚えてる?」 ノエルが、語り出した。 その言葉が気になり、思わず俺は歩を止めた。 「どの時だ?」 「レイナ様から依頼された"朱剛蜥討伐任務" それに向かう道中、荷車の中で話した事よ」 ん? あー。 そう言えばノエルの奴、あの時なんか言っていた気がするな。 確か……。 "この任務が終わったら、個人的に話がある" とか言っていた様な。 記憶があやふやだが、俺は微かに思い出した。 で? 「それが?」 「バタバタしちゃって、結局話す機会がなかったんだけど…… 敢えて、今話そうと思うの」 「お、おう まぁ、手短にな」 「私は、カズの事が好きだった」
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