相違

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バッと、後ろに飛んでノエルとの距離を取る俺。 「私の初撃をよく避けたわね 流石はカズだわ」 なんかノエルが褒めてくれた。 「ありがとよ」 と、言ってみたものの……。 ぶっちゃけ避ける事は容易だった。 ノエルの動きは素人そのもの。 これじゃあ、リコの指示も必要ないくらいだ。 さて……。 さっきは思わず避けてしまったが。 今度こそ。 俺は再び臨戦態勢を整えた。 その時。 「――痛っ!」 俺は右手のひらに痛みを感じた。 慌てて確認してみると、そこには切り傷が入っていた。 僅かな傷で、出血もそれ程なかったが……。 何故だ? 確かに俺は、避けた筈。 傷口を見ながら、考えていると。 「大丈夫ですかマスター!?」 リコが心配していた。 「あぁ、大した事はない」 俺がそう応えると、それを聞いていたノエルが反応した。 「あら? どうやら避けきれなかったみたいね でも、それが当然よ」 ん? 「どういう意味だ?」 「だって、この薄暗いところで、透明な刀身を持つ氷の太刀筋から逃げるなんて、どんなに練度を積んでる人でも難しいと思うわよ?」 ふむ……。 なるほどな。 確かに、あの氷の太刀は見え難い。 距離感を正しく認識しなければ、避ける事は難しいだろうな。 俺の場合、避けたつもりが、切っ先だけカスっていたのか。 本当に、厄介な武器だ。 って、いやいや! 俺が疑問に思ったのはそこじゃねぇ! 問題なのは、なんで俺が傷を負っているのかって事だ。 闇術を行使した俺の右手のひらに、氷の太刀の切っ先がカスったのなら。 氷の太刀の切っ先の方が、水に戻っている筈だ。 おかしい……。 何故だ……。 闇術を使い慣れていないとはいえ、思惑が外れるのは困る。 考えろ。 考えて、原因を追求するんだ。 俺は自分に言い聞かせて、思考を開始した。
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