相違

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俺がしようとしていた事は、"闇術"『略奪』を使って、ノエルの氷の太刀に宿っている魔力を奪おうとした。 そうする事で、氷の太刀を元の水に戻そうとした。 しかし。 触れてみたところ、どうやら魔力を奪えなかったみたいだ。 うーん……? ん? 魔力を"奪えなかった"? 待てよ……。 そもそも、魔力が無いのだとしたらどうだ? あの氷の太刀には、既に魔力が含まれていないのだとしたら……。 ノエルが"付与魔法"『氷の武器』で、氷の太刀を造った時には、まだ魔力の介入があっただろう。 そこから更に、氷の太刀に硬質化を施したところまでも、魔力の介入がある。 だが、そこから先はどうだ? もし。 もしも、あの氷の太刀が単なる"無機物"なのだとしたら。 ノエルの魔術によって造られた物質が、その後は魔力が抜けても物質で在り続けているのだとしたら。 全て説明がつく。 そうか。 そういう事か。 つまり、あの氷の太刀は、本当に純粋な氷だという事になる。 なら、水に戻すなんざ火を使う以外には不可能だ。 まぁ結果的に、避けてしまったから、大事にいたらなかったが……。 あのままモロに触れていたかと思うと、ゾッとするな。 逃げ癖に助けられたぜ。 さて、そうと決まれば、闇術は使えないな。 仕方ない。 リスクがあったから、やりたくはなかったが。 自衛隊で学んだ護身術を使うとするか。 刀身にさえ注意していれば、ノエルの剣捌き程度ならなんとかなりそうだ。 よし。 「どうした? かかってこいよ」 俺はノエルを誘う。 護身術っていうのは、相手の動きを利用するのが一般的だからな。 俺は、受けに徹しよう。 「言われなくても!」 本当に挑発に乗りやすい奴だ。 ノエルは再び、俺を目掛けて突っ込んで来た。 その時。 「――痛っ!!」 ノエルはそう漏らし、立ち止まった。 ん? どうしたんだ? 俺は、突然の事に疑問符を浮かべていると。 ノエルは自分の右手のひらを見て、顔をしかめていた。 なにかあったのか? そう思い、尋ねてみる。 「どうした?」 するとノエルは俺を一瞥し、自らの右手のひらを見せてきて言った。 「カズ……! アンタ、一体なにをしたの!?」 見ると、ノエルの右手のひらには切り傷が確認できた。 驚いたのは、その傷が俺の負った傷と酷似している事だった。
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