相違

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太刀を振りかぶるノエル。 なんだそのへっぴら腰は。 これじゃあ、俺どころか、餓鬼にだって当てられるか怪しいぜ。 大分、目もこの薄暗い場所に慣れてきた。 暗順応ってやつだな。 だから、透明な刀身を持つ為に見えにくかった氷の太刀の間合いも、今度は把握できた。 余裕だな。 俺は振り下ろされる氷の太刀を横に逸れて、避ける。 そのまま、ノエルの両手を捉えた。 「え!?」 慌てるノエルを余所に、捉えた両手を前に引き、そのついでに軸足を払った。 すると。 「きゃあ!!」 ノエルは体をひねり、転倒した。 へっ! ざまぁねぇな。 実に哀れだ。 俺は捉えているままの、ノエルの両手から氷の太刀を奪う事にした。 人間の手は、その構造上、物を保持しているのは大抵親指だ。 だから、親指にちょっと力を加えてやるだけで、簡単に掴む力を無効化する事ができる。 やる事は単純だ。 親指の関節部分を、上から押さえる。 すると、親指は反った形になり、掴んでいる物を保持できなくなる。 俺はそうする事で、ノエルから氷の太刀を引き剥がした。 「ちょっと!! 返しなさいよ!!」 荒ぶるノエル。 「女の子がこんな物騒な物を振り回すんじゃねぇよ 似つかわしくねぇぞ?」 俺は座り込むノエルを尻目に、奪った氷の太刀を弄んだ。 するとノエルは。 「カズを止める為でしょ!!」 そう叫んだ。 俺を止める……ねぇ。 いい加減に、諦めて欲しいものだ。 だから。 「なら、尚更無駄だったな」 俺は、氷の太刀を遠くに投げ捨てた。 宙を回りながら、飛んでいく氷の太刀は、そのまま着水。 下は水の流れがある為、氷の太刀は着水地点から移動するだろう。 刀身が透明という事もあり、それが原因で氷の太刀の姿は水に同調している。 余計に見え辛くなり、その居場所は極めて分かり辛い。 これで簡単には探せないな。 その様子に、ノエルは悲壮な表情を浮かべた。 「な、なんて事を……」 フン。 「これで、諦めたか?」 俺はノエルの心を折ったつもりだった。 だが。 「そんな事をしたって! 私は絶対に諦めない!!」 ノエルは戦意喪失する訳でもなく、今度は杖を取り出して、立ち上がった。
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