相違

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「待って……!」 ノエルがそう言って、俺の足を掴む。 だが、その掴む手に力はなかった。 俺は、普通に歩くだけの動作でノエルの掴む手を振り解いた。 「行くぞ、リコ」 俺はノエルの発言を無視し、リコを呼ぶ。 「は、はい……!」 リコは、返事をすると俺の後をついて来る。 その時。 「リコちゃん…… お願い、カズを止めて」 ノエルはリコを頼っていた。 懲りない奴だ。 ノエルに懇願されたリコは、少し戸惑った様子で応えていた。 「すみませんノエルさん 私はマスターの意思に、背く事はできないのです でも、安心して下さい マスターは必ず、この私が護ってみせますので!」 「そんな…… だ、駄目よ……」 希望が打ちひしがれたノエルは、悲哀に満ちた表情で絶望していた。 フン。 リコを利用できるのは俺だけだって言うのに。 無駄な事を。 「ごちゃごちゃ言ってねぇで、行くぞリコ ぐずぐずしていると増援が来ちまう」 「は、はい! 只今!」 そして、俺はその場を後にした。 後方でノエルが喚いていたが、そんな事はお構いなしに進んだ。 しばらく進み、後方が真っ暗で見えなくなった時。 「うあーん!!」 ノエルの泣き声が聞こえてきた。 それも大泣きだ。 やかましい。 そう思った時。 「ちょっとノエル! アナタ、大丈夫!? って、冷た!!」 ん? ティナの声だ。 増援に来たみたいだが、一足遅かったな。 「全く、アナタの事だから無茶な事したんでしょ!! ガルム! ノエルを担いで頂戴! 医術院に連れて行くわ」 「おう!」 ガルムも居るみたいだな。 「待って……! カズを……! カズを追いかけて!」 そんなノエルの、悲痛な訴えが聞こえてきたかと思えば。 「ノエル…… カズの捜索はギルドに依頼したわ アイツは、もう私達の手に負えないのよ」 ティナが冷静に、ノエルの頼みを棄却していた。 「そんな……」 「いいから! アナタは自分の体を心配しなさい ボロボロじゃない」 「ノエルが羽織っている上衣はカズのだな? アイツにも、まだ人としての良心が残っているって事だ 心配せずとも案外、考えを改め直して帰ってくるんじゃねぇか?」 「ガルムの言う通りよ ほら、行くわよ」 そんな声が聞こえてきたのを最後に、俺は立ち去った。 俺の良心? ガルムの奴、何を言ってやがる。 やはりアイツ等とは分かり合えそうもないな。
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