消失

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複眼を備え、8本の足に、体と比較してデカい腹には毛が蓄えられている。 この風貌……。 明らかに、蜘蛛だ。 まぁ、大きさは軽トラック程もあるがな。 なるほど。 道理で体温がない訳だ。 虫は基本的に、自らの体温が外気の温度と同等になる構造をしている。 大きな括りでは変温動物だが、厳密には違うらしい。 もっとも、体温調節器官を有した虫も例外的に存在する。 が。 蜘蛛はその例外ではない。 この蜘蛛の体温を、リコが感じ取れなかったのはそういう事だったのか。 しかし、僅かな熱反応は感知したと、リコは言っていたよな? 現れたり消えたりしていた、小さな熱反応……。 その理由はなんだ? まぁ、そんな事は今はどうでもいい。 この蜘蛛の処理が最優先事項だ。 「早速お出ましか!」 俺は震える両手を必死に動かして拳銃を持ち上げると、蜘蛛に照準を合わせた。 だが……。 引き金を直ぐには引けなかった。 理由は簡単だ。 引き金が重い――。 のもあるが、そんな物理的要因ではない。 俺がその蜘蛛を直ぐに撃てなかった理由。 それは……。 「あ、あれ…… 蜘蛛の急所ってどこだ?」 そう、蜘蛛の弱点が分からなかった。 普段蜘蛛を殺す事など、踏み潰すくらいしか手段を知らない。 小物の対処など、たかが知れているからな。 だが、大きくなると話は別だ。 この蜘蛛を殺すには、死に至らしめる部位に、ピンポイントで損傷を与えなければならない。 だが、蜘蛛の弱点など知らねぇぞ。 そもそも、蜘蛛に心臓ってあるのか? チッ……! 考えても、分かるものじゃねぇ。 ここは物知りなリコに説明を仰ぐしかなさそうだ。 そう思い、俺はリコに指示を出す。 「リコ!! この蜘蛛の弱点を――」 俺が指示を出している最中。 当たり前だが、蜘蛛は悠長に待ってなどくれなかった。 「ギギッ!!」 蜘蛛は前足の一本を振るい、その尖った爪で俺の左足を切り裂いた。
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